実録シリーズ③ 組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~第2回:改革の論点-案の完成

組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~
「組織改革案立案」編
第2回:改革案の完成

私どもバランスト・グロース・コンサルティングは、日系の業界最大手消費財メーカーB社・研究所の組織改革をお手伝いする機会を頂いた。本コラムはその事例を組織改革案立案(第1回、第2回)・組織改革実行(第3回)に分けてお伝えさせて頂く。(執筆担当:第1回・第2回=石井由香梨、第3回=山碕学 / 編集=西田徹)
尚、本事例共有は、組織、人材がこのプロジェクトを通じてどのように変容を遂げていったか?についてフォーカスすることを目的としている。また、機密保持の関係上、匿名性を担保しながら、可能な限り実態と実際が伝わる内容となるよう工夫していることをご容赦ください。

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【構成】
「組織改革案立案」編
第1回
1)プロジェクト発足背景
2)プロジェクトの目的
3)プロジェクトの全体像
4)プロジェクト発足当時の参加者の参加スタンス

第2回
5)中間インタビューから見えてきた参加者の本音
6)組織改革案策定にあたり、深く向き合った論点
7)組織改革のための素案
8)プロジェクトスタート時から、改革案完成時の参加者の心情変化

「組織改革実行」編
第3回
9) 全研究員への改革案の発表
10) 改革案導入の意思決定時に起こった抵抗
11) 新施策の導入
12) 施策導入の成果
13) 研究所長の学び

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第2回:組織改革案立案②

第1回においては、プロジェクトの発足背景から参加者のスタンス、そしてプロジェクト・チームとして起こりつつある変化までを紹介した。

第2回は、さらなるチームとしての進化から改革案を完成させるまでのプロセスをご紹介する。

 

5)中間インタビューから見えてきた参加者の本音

第1回にて記載したような不安や不満に向き合った上でプロジェクトを進めて行くために、途中、私共コンサルタントが個別にインタビューを行い、本音を聴いた。インタビューはそれまでに共有されていた問題意識よりも、更に数段深いリアリティのある言葉を伺う場となった。
そこで出てきた意見を一部紹介させて頂く。

<戦略について>
研究開発は息の長い仕事だが、戦略が短期間で変わる傾向にあり、自分達は何を信じて仕事をするべきなのか、分からなくなることがある
一般消費者向けプロダクトを作る企業として、既存製品を持つ事業カンパニーと新製品戦略をしっかり握ることが、ビジネス戦略上の肝となるが、事業カンパニーと研究所の連携が不十分なため、各部門が異なる戦略をもち、結果戦略がぶれてるように感じる

<組織の在り方について>
(soft)
研究所に長く所属する人は「失敗を恐れずに自由に研究して長期視点で成果を出す」という考え方で育ってきた一方、最近は「タスクや期限を明確に決めて、確実に研究を進める」というマネジメントに変わりつつあると感じており、この二つがはたして融合するのか、イメージが持てない
部門内、チーム内で研究開発内容が閉じられており、隣の部門が何をしているのかが分からない。研究開発は、思いもよらない技術の組み合わせで新しい発明が実現できることもあり、本来はもっと組織の垣根を越えた雑談や情報共有が必要だと思う。そしてそういう場があればもっと職場の雰囲気が明るくなるのではないか

(hard)
評価制度、昇格制度に対する不満を持っている人が多い。評価の基準を明確化してほしい、評価が決まるプロセスを明確にしてほしい、という声が多く上がっている。評価がブラックボックス化している印象を持つ

<人材について>
中間管理職が「下の意見を吸い上げねばならない」という意識が強く、結果、自分の意見を持たない調整役になっている。しかし、部長層以上は自分の意見を主張するため、中間管理職は板挟みになっている
会議をうまくファシリテートできるリーダーが少ないため、会議で物事が決まらない。それが時間を無駄使いする一番の原因になっている

<プロジェクトについて>
以前、選抜研修メンバーに選出され、ビジネス知識を学んだ後に課題解決案を経営層に提言したが、結局提言に留まり、実行に移されなかった。そのトラウマがあり、このプロジェクトがその二の舞にならないことを願っているが、本当に実行まで移されるのかは少々疑問を持っている
発言者が偏らない様にしてほしい。リーダーシップを取る人が決まりつつあるように感じる
グループごとに雰囲気が異なり、その雰囲気が果たして融合できるのかを不安に思っている

 

6)組織改革案策定にあたり、深く向き合った論点

表面的な改革案になることを避けるために、下記論点については模造紙やポストイットを使い、妥協することなく議論を重ね、時に意見の対立が巻き起こりながらも、全員が納得するまで考えを深めて行った。

ペイン・プレジャー・マトリクスを活用し、
多くの人がありたい組織を作りたいと思っているにも関わらず、そこに至らない本質的な障害は何か?
ありたい組織を実現するにあたり、伴う痛みは何か?
ありたい組織を実現することで、喜びとはなにか?
その痛みと喜びはどちらが上回るのか?

(ペイン・プレジャー・マトリクスの詳細は、こちら

また、
ありたい組織に対して無関心になっている人は、何がその人をそうさせたのか?
組織改革に否定的であろう人が、どんな葛藤、怒りや不安を抱えているのか?
その人たちの状態を踏まえて、組織としてやれることはなにか?

この議論を通じていわゆる組織の中で光が当たりづらい人にまで焦点をあて、組織の中で周縁化された人達の声まで聴くことで、論理的に考えれば正しかろうことが、人の感情を踏まえると「正しい」と判断されないことや実行が叶わなくなることに対しても深い納得を得た。それらを踏まえて、何が本質的な改革案となり得るのかを検討し続けた。

 

7)組織改革のための素案

<作りたい組織とは>
数ヶ月間の議論を踏まえて、作りたい組織は
【同じ志で新しいものを生み出す活力のある組織】であるとの結論に至った。

<作りたい組織を実現するために、組織改革3つの案>

<1>会議体改革
会議の目的を明確にすることを強く打ち出し、まずは会議の目的を①意思決定、②情報共有、③相互理解、④議論の4つに分類。その上で、【同じ志で新しいものを生み出す活力のある組織】にはより部門横断で②③④が必要との課題意識に沿い、新しい会議体を2つ提案した。尚、会議でなぜ意見が活発に出ないのか?という論点については、相当な時間をかけて心理学的な観点に踏み込んだ分析をおこなったため、その論点に対する十分な配慮がなされた提案であることがこの案の妙である。

<2>組織/仕組み改革
「挑戦を促す仕組み」「意図的にコミュニケーションを促す仕組み」をどう創り出すか、そのための「時間捻出」、これらを軸とした改革案を提案した。具体的には、自発的に組織横断で新たな研究開発のネタを発掘させる仕組みであり、組織内でのコミュニケーションの在り方を変える仕掛け、そして個々人の時間の使い方に対する新たな提案、である。全ての施策の上位概念は【固まっているものの流れを良くする】ことであり、さらに組織の中の流れを良くすることは、社員のモチベーションを上げるという力強い仮説も掲げている。

<3>評価改革
【どんな仕事も評価される】【お互いが尊重し合う】【自分の仕事や能力に対する適切な自信を持つ】ために、研究所内で完結する表彰制度を提言した。(よって人事主導の評価制度に対する提言ではない)加えて、自己評価を正しく認識するためには上長とのコミュニケーションも必須となる故、上司とメンバー間のメンタリング面談も、既存の面談の仕組みを進化させる形で提言された。

 

8)プロジェクトスタート時から、改革案完成時の参加者の心情変化

様々な変化が起こったが、その変化を一言に集約させると、
【当事者意識の変化】に尽きるのではないかと考える。
他者との対話、自分との対話を通じ、会社、組織、自分自身を客観視し、そして自分の主観に気づく、自分自身のリーダーシップに気づくという数ヶ月間だったのではないだろうか。

下記は、改革案完成時のメンバーからのコメントを抜粋している。

【本気で向き合う覚悟】
改革案を検討しながらも、「改革案は我々が作るが、組織全体への共有は所長からしてもらうべきだ」と思っていた。我々が発表すると、説得力が薄まるし、組織の中で浮くような存在になりたくない、というのが本音だった。しかし今は、この提案は所長ではなく、我々のようなメンバーが組織に訴えたことに意義があると思っている。これは上からやらされる改革案ではなく、我々が本気でやりたいことだと伝えたい。

【仲間を得た喜び】
このプロジェクトでの財産は、改革案を完成させたことも然ることながら、それ以上に仲間ができたこと。今まで同じ研究所の中でこのような問題意識を持っている人は自分だけだと感じていたが、皆で本音を語り合い、同じような問題意識を持ち、同じようになんとかこの組織を変えていきたいと願っている人が居ること、そして自分は一人ではないと思えたことが一番の収穫だった。

【自分たちの作品という自負】
スタート時は、以前に受けた研修でのトラウマがあり、「置きに行く(無難に終わらせる)」提案になるに対する嫌悪感があった。そして講師のシナリオに乗る内容になることも避けたいと思っていた。しかし今回は、研修ではなく自分達で作り上げた実感がある。この改革案は今の組織に必要なものであり、自分達の作品だと自信を持っている。懐疑的な、少々斜に構えた過去の自分と今の自分を比べると、自分の変化に驚いている。

【会社と自分への誇り】
喜びだったことは、自分は自社の強みに気づいてなかったこと。そして入社時に何に惹かれてこの会社に入ったかを思い出させてもらったこと。今回、外部パートナーの方から客観的に当社の強みを伝えてもらったことで、自信を得たし、会社に対する認識も変わった。自社を誇りに思えることは自分のモチベーションにもつながる。そしてこのような素敵な仲間が居ることを知る機会を得たことも、自分のモチベーションにつながった。この会社には想いのある、優秀な研究者が沢山いる。自分も本気で頑張らねばと思っている。

【同じ方向に向っている感覚】
正直なところ、スタート時はこの17名がバラバラだと感じた。最初のコンステレーション・ワークで「どれくらいこのプロジェクトに興味があるか?」という問いに対しても、皆立ち位置がバラバラだった。しかし今は全員がこの改革案をやりたいし、我々の絆も強まっている。今、もう一度コンステレーション・ワークを受けてみたい。全く違う結果になると思う。

<コンステレーション・ワークとは>
コンステレーションは「座標」「星座」という意味。
特定の「テーマ」に対して、その場の参加者がどのような心理的距離感や捉え方をしているのかを立ち位置やポーズで表現することで、そのシステム(チーム)の全体像や構造、空気感、一人一人の立ち位置を顕在化させ、現時点での地図として認識するワーク。
合意された現実 Consensus Reality(CR)レベルだけでなくドリームランド(DL)レベルで、「テーマ」を中心にした時の個々人の関係性はどこにいるのか?どうあるのか?また、場全体のコンステレーション(布置)どのような状態なのか? が見える化される。

 

以上が、【組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える】の「プロジェクト発足から改革案立案」編となる。
最後に個人的な感想を申し上げると、このプロジェクトを通じて感じたことは下記の5点である
本心で繋がり合うことの偉大さ
問題意識を共有することで形成される深いレベルでの共感
お互いを知らないことで起こる誤解からの嫌悪感、及びそれを乗り越えた時の新たな関係構築
誰の心にも棲む、変化に対する恐れを認めること、そして変化に対する好奇心を共有することで起こる大きな変化
強い個が繋がり合うことで、チームが完成する喜び

改めて、このような素晴らしいプロジェクトの関わらせて頂いた幸運に感謝を申し上げます。

石井 由香梨

なお、次回(第3回)においては、プロジェクト・チームが改革案を全研究所員に提案し、いかにして実現させていったのか、「組織改革実行」編を執筆者を変え、山碕学から紹介する。

 

※第3回はコチラ