プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

実録シリーズ③ 組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~第1回2020年7月19日

組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~
「組織改革案立案」編
第1回:プロジェクト発足

私どもバランスト・グロース・コンサルティングは、日系の業界最大手消費財メーカーB社・研究所の組織改革をお手伝いする機会を頂いた。本コラムはその事例を組織改革案立案(第1回、第2回)・組織改革実行(第3回)に分けてお伝えさせて頂く。(執筆担当:第1回・第2回=石井由香梨、第3回=山碕学 / 編集=西田徹)
尚、本事例共有は、組織、人材がこのプロジェクトを通じてどのように変容を遂げていったか?についてフォーカスすることを目的としている。また、機密保持の関係上、匿名性を担保しながら、可能な限り実態と実際が伝わる内容となるよう工夫していることをご容赦ください。

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【構成】
「組織改革案立案」編
第1回
 1)プロジェクト発足背景
 2)プロジェクトの目的
 3)プロジェクトの全体像
 4)プロジェクト発足当時の参加者の参加スタンス

第2回
 5)中間インタビューから見えてきた参加者の本音
 6)組織改革案策定にあたり、深く向き合った論点
 7)組織改革のための素案
 8)プロジェクトスタート時から、改革案完成時の参加者の心情変化

「組織改革実行」編
第3回
 9) 全研究員への改革案の発表
 10) 改革案導入の意思決定時に起こった抵抗
 11) 新施策の導入
 12) 施策導入の成果
 13) 研究所長の学び

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第1回:組織改革案立案①

1)プロジェクト発足背景

本組織変革プロジェクトは、B社内で実施した組織サーベイの結果がきっかけとなり発足した。サーベイ結果に問題意識を持たれた研究所の所長が、結果を真摯に受け止め、改革を実施することを決断されたのである。コメントの中に「毎年、調査をしているが、調査の結果のアクションプランは実行されない、組織が変わったという実感の伴わないプランとなっている。結果を踏まえた実行されるものにしてほしい」という声があり、まさにその声に向き合うためのプロジェクトでもあった。尚、プロジェクトメンバーは自主性を重んじるため、応募制が採用され、自ら組織変革に意思を持ったミドル層のマネージャおよび中堅所員17名のメンバーで構成された。

 

2)プロジェクトの目的

本プロジェクトは、下記の通り目的を定め走り始めた。

 自由闊達な組織(みんなが自由に明るく、好きなことをやる組織)を作るために、サーベイ結果を踏まえた実現性のあるアクションプランを策定する
 プロジェクトを通じて一人ひとりが成長し、自身のリーダーシップを高める機会とする

実施途中、メンバーから本目的を定めた所長に対して「抽象度の高い目的故、より具体的な目的を定めたほうが実効性は高まるのではないか」という声が上がったが、所長は敢えて目的の解釈をメンバーに委ねたいと伝えた。質疑応答も含め、この議論を丁寧に行ったことにより、所長の【本プロジェクトは17名が主導するものであり、私が主導するものではない】という強い意思がより強調されたと共に、17名にとっては、より主体性と責任が芽生える契機にもなった。加えて、プロジェクト開始時点で、所長と侃々諤々目的について議論し合うというプロジェクトの始まり方は、個人的には、B社社員の「本質にこだわる」ことへの力強さを感じた。

 

3)プロジェクトの全体像

プロジェクトは大きく下記ステップで進められることとなった

①17名のチームビルディング
②目指したい組織の明確化
③現組織に対する認識の共有化
④プロジェクトメンバーに対する個別インタビュー
⑤アクションプランの策定
⑥アクションプランの組織全体への共有
⑦組織全体を巻き込んだアクションプランの実行

 

4)プロジェクト発足当時の参加者の参加スタンス

我々バランスト・グロースが最も優先したことは、自由闊達な組織を目指すことを掲げた目的に基づき、プロジェクトメンバーの本音に即してプロジェクトを進行することである。そこで、初日にその趣旨をお伝えした上で、プロセスワークを活用しながら、参加メンバーがどれくらいこのプロジェクトに興味を持ち、主体的に関わっていきたいと考えているのかを語り合ってもらった。*プロセスワークの詳細は本コラムの最後に記載

すると、多くの人が「まずは様子を見たい」といったスタンスで参加を希望しており、主体的に関わりたいという強い意思を表明した方は少数派であった。加えてこのプロジェクトに懐疑的な意見をお持ちの方も数名居た。懐疑的であるからこそ、プロジェクトが暴走した場合には、自分が防波堤になる役割を担いながら、プロジェクトを見届けたいという、ある意味では最も強い当事者意識をお持ちの方も居た。

「様子見」「懐疑的」になる理由としては、
 プロジェクトが始まって間もないため、プロジェクトの中身がイメージできない
 プロジェクトが成功したとしても、本当にそこで考えた施策が実施できるのか確信を持てない
 過去にもプロジェクトが設立され、自分達が本気に考え抜いた提言が握りつぶされた。また同じようになるのではないか
 ここに集まった17名は意識が高いメンバーだが、このプロジェクトに参加していない300名近くのメンバーがこのプロジェクトにどういう印象を持っているか分からないため、組織全体におけるこのプロジェクトの受け止められ方が不明

などが挙がった。

手を挙げてプロジェクト・メンバーになったものの、いざプロジェクトが始まると、組織変革を担うリーダーになる大変さを実感すると同時に、リーダーとしての当事者意識を未だ持てない状態である。

プロジェクト発足時にはよく起こる状態であるが、このような感情をもってスタートすることをチーム内で共有し、チームがこのような状態であることを互いが自覚し合うことには深い意味がある。なぜならば、プロジェクトを綺麗ごとで進めてしまうと、結果表面的な提案に終始する恐れがあるからである。物事に対する否定的な感情や負の感情を明らかにする、そしてそういった感情は個人ひとりが持っているわけではなく組織に蠢いていることを認識する、さらにその一見掴みどころのない組織の感情と向き合うことが、今回のプロジェクトの肝であった。よってこの工程にかなりの時間を割いた結果、組織に対する深いレベルでの理解が促進された。加えて、自身の様々な感情が揺れ動きを直視することが、まさに自分を知るきっかけとなり、自分の価値観、自分のリーダー観を内省する機会になっていった。プロジェクト途中に、悔し涙を流す方、自分の無力感を言葉にする方、プロジェクトに対して率直な違和感を言葉にする方もいらしたが、そういった感情の機微を全員が経験することを通じて、表面的ではない、本質的なプロジェクトへと昇華しつつあった。

*最後に、プロセスワークの手法の説明で、第1回コラムを閉じさせて頂く。

【プロセスワークとは】
物理学者、ユング派分析家でもあるアーノルド・ミンデルが創始した心理手法であり、プロセス指向心理学とも呼ばれる。問題や課題には意味がある、という目的論の視点に立ち、気づきの力を養うことで本質的な変化を目指す。プロセスワークのアプローチの一つとして「3つの現実レベル」があり、現実をより丁寧に分析するため、レベルを3つに分類し、捉えていく。
(プロセスワークの解説は、こちら

 

3つの現実レベルとは、
・合意された現実 Consensus Reality(CR):他者と合意できる現実。観察可能な客観的事実、行動、言動。
・ドリームランド Dream Land(DL):他者と合意しにくい現実。感情や身体感覚、大切にしている思いやビジョン。人それぞれ、互いに合意しにくい現実に立脚しているため、それが関係性における葛藤の原因となることがよく起きる。
・エッセンス Essence(E):日常意識はもちろん、夢さえ生まれる前の源(みなもと)となる現実。
(3つの現実レベルの解説は、こちら

このアプローチは、「ドリームランド(DL)」にある自身の様々な感情が揺れ動きを直視することで自分の現状を深く知るきっかけとなり、自分の価値観、自分のリーダー観を内省する機会につながる。
本エッセイの中に、感情が揺れ動いた方々について記載しているが、それはどのようなドリームランドを持ち、このプロジェクトに向き合っているのか、という問いを我々がプロジェクトメンバーに投げかける続けたことがきっかけとなった。その結果、一見、組織を円滑に運営するために、蓋をした方が良いと思われるような感情(怒り、不満など)を共有することにも意味がある、という共通認識が醸成された。このように表面的ではない感情の共有から昇華しつつあるプロジェクトチームが、更にチームや個人とどのように向き合い、どのようなアウトプットを出していったのか、第2回にてご紹介する。

(執筆:石井 由香梨)

 

第2回:改革の論点-案の完成