プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

文化をツールとして使いこなすためのヒント(第三回)組織を読み解く6つの次元(切り口)ー次元1 組織の効果性、次元2 顧客志向のあり方ー2016年12月15日

2016年12月15日 宮森 千嘉子[イティム・ジャパン株式会社

文化を扱う上で最も留意すべきなのは、単純化によって重要な視点を見失わないようにすることです。組織の文化を見立てる時、「従業員は組織の戦略を理解しているか」「上司に思ったことが言えるか」というような質問を通じて、職場の人間関係を明らかにする方法が良く取られます。職場の人間関係は確かに組織文化の一部を形成しますが、一部にしかすぎません。組織の文化を出来る限り正確に測るには、戦略と目的への志向性、顧客への考え方、仕事の進め方などが大きな影響を与えていることを考慮する必要があるでしょう。 組織という非常に複雑でかつ有機的なシステムを扱うには、直感や感覚、これまでの仕事の経験、定性的な情報に加え、科学的実証のされた客観的なモデルを適用することが有効です。完璧ではありませんが、ホフステードの組織文化モデルは出来る限りこれらの条件を満たすよう設計され、過去30年間検証されてきましたので、組織を視覚化するツールとして有効です。 今回からはホフステードのモデルが扱う6つの次元が何を見ているかを詳しく紹介いたします。

次元1 組織の効果性 (手段重視 対 目的重視)

 

 組織が目的を達成する文化(環境と言い換えても構いません)を備えているかどうかを測る、非常に重要な次元です。Howが重視されるルーティン業務が中心の場合は手段重視、日々が変化に富みダイナミックに新しいことにチャレンジする業務が中心の場合は目的重視の文化が機能します。スコア0−45の範囲は赤から黄に色付けされており、組織文化が機能不全であることを示しています。あまりにも極端な手段志向の文化では、考えることを放棄し、指示されたことだけをやる傾向があり、マネジャーは過去の成功体験を部下に押し付けがちです。その結果として組織や顧客に危害を及ぼすようなことがあっても気に留めません。 この次元では、どの程度まで目的重視のスコアを実現できるのかを注意深く設定する必要があります。これは組織の持つ目的によって左右されます。危険物を扱い、リスクが高く安全確保が最重要となっている職場環境では、あまりにも目的重視の文化では機能しません。一方、常に顧客から新しい課題が与えられ、クリエイティビティを駆使して効果的な成果を出し続けなければいけないような組織では、広70でも低く、さらに高いスコアが求められることがあります。

次元2 顧客志向のあり方(組織の内部論理重視 対 外部ステークホルダー重視)

 

 どの組織にも、顧客は存在します。実際に顧客と接しないバックオフィス機能の組織でも、社内の顧客が存在します。この次元は、組織が顧客に対してどのような志向を持っているかを明らかにします。組織の内部論理が優先される文化では、顧客にとって何がベストかは自分たちが知っていると考え、顧客対応の際は自組織の手続き、手段が重視されます。外部ステークホルダーを優先する組織では、顧客のニーズや視点を考慮して柔軟で実用的な手法が取られ、常に改善の余地があると意識し行動する傾向が見られます。ここでも、極端に内部論理を優先する文化は顧客への視点が欠けており、機能不全となりますが、何を持って機能不全とするかは、組織が置かれている状況によって異なります。 アフリカの開発支援プログラムを担当している欧州組織の文化を診断したところ、顧客志向のスコアが5という結果が出ました。通常では機能不全の文化と診断されますが、このケースは異質でした。欧州組織のメンバーは、アフリカの地で支援を受ける人たちにとって何が最善かは、自分たちのほうが良く知っているという強い感情を持っていました。加えて、プログラムの初期段階で、支援を受ける人達のニーズを優先すると資金や物資の不正流用が起こるという痛い経験をしたため、欧州組織のメンバーは自分たちの倫理基準を徹底して守ることを貫いていたのです。このような文化を持たなければ、効果的なプログラムを運営することは不可能でした。 また、日系プロフェショナルサービス企業の営業部門を対象に診断を行ったところ、外部ステークホルダー優先/95という高い評価が出ました。営業チームからは「自分たちはプロフェッショナルサービスを提案しており、顧客の期待通りに答えるだけでは仕事にならない。このスコアはあり得ない」というフィードバックがありました。しかし、良く話を聴いてみると、彼らは一方で経営陣から、売上を伸長しなければならないという強いプレッシャーを受けており、結果として顧客からののリクエストは全て引き受けていたことが明らかになりました。 次元1が「組織の目的」と自分たちの仕事との関係性を扱っているのに対し、次元2は顧客や外部ステークホルダーいう、組織外の集団をどう満足させるかという事象を扱っています。手段志向が強く、あまりにも顧客志向が強いと、顧客を喜ばせるためにはなんでも行うということになり、極端に言えば顧客に頼まれれば賄賂や不正も引き受けてしまういうことにもなりかねません。 次回は次元3(仕事の規律、コントロール)と、次元4(職場の関心、同調圧力)をご紹介します。