プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

【後編】時間の制約を超えるタイムマネジメント  ― あなたが「時間が足りない」と思う理由 ―2013年10月24日

2013年10月24日 小島美佳 [バランスト・グロース パートナー]

近年のビジネスマンは、作業効率の上がるあらゆるツールが導入されているにもかかわらず、仕事そのものは楽になっていないように見られます。環境の変化はますます速くなり、時代の速度についていくだけでも大変な労力が必要とされる現代。代表的なものが上場企業が取り入れた四半期決算でしょう。利益の創出が早ければ投資効率も上がる。全ての取り組みにスピードが求められ、スピードがある≒価値があるという考え方、時間と如何に戦えるのか?という感覚が主流となっているのがビジネスの現状なのかもしれません。

本稿では、タイムマネジメントを東洋的な思想で行う方法をご紹介したいと考えています。新しいインスピレーションをご提供できば幸いです。

※ 前編は<こちら>からご覧になれます。

●計画を立てることの意味とは?

私自身の話となり恐縮ですが、私はコンサルタントとして かなりの長時間労働が要求される職場で社会人教育を受けました。その時に学んだのは、「いかに効率的に到達目標に達するのか?」「最も短い時間で一見恐ろしく量のあると思われる作業をこなすのか?」… という手法でした。当然のことながら、常に時間に追われる毎日。そんな中では、優先順位をつけて作業をしなければ間に合いませんし、ピークが迫ってくると睡眠時間を削るという選択肢だけでは到底対応できない。クライアントへお出しする報告書をギリギリまで修正し、お持ちすると「この紙はまだ温かいですね…」と言われることもしばしばでした(コピーしてそのまま お持ちするためです…)。そんな中で評価されるのは、最も短時間で成果にたどり着く人間です。こんな世界で育った私は、成果主義や効率性という神話を何の疑いもなく信じるようになりました。

しかし、ひとたびコンサルティングという職種から離れ、自ら事業を開発し育てるということをやりはじめると、その成果主義と効率性の神話がうまく作用しなくなりました。計画をたててもうまくいかないことのほうが多い。不確定要素が多く存在する場合、立てる計画はコミットメント目標のようになってきます。理屈の世界では様々な予測をしますし ある程度の計画は立てます。そして、その通りに活動をしてみるわけですが、やっているうちに計画と成果そのものとの乖離が広がってくるわけです。かなり意識していないと最初に立案した計画は次第に忘れ去られてゆきます。売上計画やキャッシュフローの計画などは、特にそうでした。新規事業で予測や計画通りに事業が成長したことなどありません。その事業を任されている責任者として「コミットした数字は何がなんでも達成するのだ」という決意に立ち返る、というコンテキストにおいてのみ 私にとっては計画に意味がありました。

営業活動でも同じでした。お客様との接点を持つことから始まり、関係が次第に深まり、やっと信頼される土壌ができる。そして受注のタイミングが訪れるまで、最終的には「待つ」ことしかできない時期もあります。ビジネスの成果は、注いだ努力に従って正比例的に上昇するものではなく、ある程度 熟した状態が訪れると一機に花開くものであるというのが私自身の考えです。そして、どの段階で花開くのか… それは予測できるものではないと思うのです。

●イノベーションを司るのは「幸運」である

新しいビジネスを切り開いてゆく時、或いはイノベーションを起こすことを夢みてその活動を続ける時にはどのような段階を経てゆくのか。多くの事業家との会話を通じ、そして私自身の経験からも思うのですが、それは到達目標という1点から現在至る線を引いたものではありませんでした。それよりも、情熱と継続した努力の積み重ねが一定程度 成熟した時、芽が出る感覚のほうが近かったような気がしています。それは、秋に蒔いておいた種が冬を越して春に芽吹くようなものだと思います。その事業、その商品にとっての時期がある。

先日、スイスから チューリッヒ大学 人工知能ラボのディレクターで、コンピュータサイエンスの権威である ロルフ・ファイファー教授にお会いしました。その時に彼は、「イノベーティブなアイディアは、Serendipity(幸運なる出会い、発見)によって生まれる。意図していないところで突然、すばらしいアイディアに出会うこともある。方法論ではなく、その幸運な出会いに気づける環境作りを意識することが重要である」と語ってくれました。このセレンディピティという感覚は、新しいものを生むという環境に身を置いた皆さんであれば、共感できるコンセプトのような気がするのです。

計画を立て、その通りに行うことによって成果に到達する。この手法は、一定の学習が進んだプラクティスの中ではかなり有効なものだと思います。工場での生産工程に始まり、オペレーションなど熟練の度合いが求められる世界。建築や何かを「構築する」という作業、トレーニング・プログラムのように、決まった活動を行うことによって期待成果が得られる予測が可能な状況において有効です。しかし、新しいものを生む作業においては、これに携わる個人の感覚やペース配分、そしてその事業やアイディアを育成し尊重する環境が求められるのではないかと思います。それは、まるで子供を育てる母親のような視点。一定の情熱を注いだのちは、期が熟すのを待つということ。スピードを重視する世界では、考えられないことかもしれません。しかし、私たちを取り巻くビジネスの世界とは一見無縁であるかのような「待つ」という作業は、現代にはブレイクスルーをもたらす大きな武器になるような気がしてなりません。

※ 関連動画を<こちら>からご覧になれます。