プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

【組織開発・超入門】
「組織変革期の歩き方」
第1回 魔王化しつつある経営リーダーたちへ2018年11月2日

組織を率いるリーダーは、短期的成果・長期的成果に向けた組織変革、組織能力の育成の全てを求められ、大変な試練とストレス下にいらっしゃると思います。

特に停滞していた組織の変革を任されたリーダーはなおさらです。

自分自身も将来が見通せない中、変革の第一声を発しアクセルを踏み出そうとしても、周囲の反応の薄さに失望。成果が出るまでの時間差の間にどんどん周囲の声も気になりだし頼れる参謀も出てこない中で孤軍奮闘するうちに、自分のポジションパワーを周囲に対して虐待的に使う「魔王化」が進行していきます

プロ野球の例で言えば、つい先日辞任を発表した阪神タイガースの金本監督の2018年シーズン中の心境が近いかも知れません。そもそも成績が出にくい組織の立て直しを、結果(短期)と若手育成と風土改革(長期)の両面から期待されました。しかしご存知の通り星野監督再来とはならず、チーム内外からの批判の声が強くなる一方。もし自分がその立場だったら、さぞや魔王化するだろうなと思いますが、多かれ少なかれ似たような状況の経営リーダーは多いのではないでしょうか。

実際、米カリフォルニア大学バークレー校心理学教授Keltner氏を始めとするいくつかの研究結果によると、企業のエグゼクティブはCEOになると突然性格が破綻し「魔王化」するという傾向データが出ています。(実際に脳にダメージを負い、「ヒュブリス症候群」という病的症状を発症しているそうです)

人事の正論からすれば「修羅場がリーダーを創る」と言われていますが、「試練と支援のバランス」を取るための方策なしに、魔王化するしないは本人次第、というのは、集団的無策とも言えるのではないでしょうか。

そんな中、魔王化しつつある経営リーダー本人は、どのような心持ちで自分や組織と関わっていけばよいのでしょうか。

 

魔王化しつつある経営リーダーへの応援歌

〜まずは自分を許すこと〜

  1. 魔王化する人は誰よりも願い、責任感が強く、エネルギーがある

    ニーチェ曰く、人間の精神の発達には3つの段階があり、「駱駝」(重荷に耐える)→「獅子」(自由な状態を獲得し自立する)→「子供」(新しい価値を創造する)の各段階を通過し発達します。「獅子」の段階では、「本当はこうすべきだ!」という自分の内なる声と自己一致し、外に向かって力強く発信します。その時のエネルギーは戦士にも似ていて、怒りの推進力も活用していることが多いものです。我々もこれまで色々な組織のリーダー育成に関わってきましたが、経営人材に脱皮していく人物のほとんどは、この魔王的パワーが強いのです。そして周りの人に対してもそうしたパワーに対抗できる人材になってほしい、強いチームを作りたいという「夢」が魔王の心の中にあります。「周囲の個人とチームワーク」に対する物足りなさと寂しさ、状況をどうにかしなければならないという責任感を人一倍お持ちのようです。

  2. 変革は個人と環境の両方が相まって可能となる

    貴方を取り巻く環境には欠けているパズルのピースがある。すごい業績をあげたリーダーもたまたまピースが揃っていただけのことかも知れません。阪神タイガースでいえば、金本監督個人の力量に目が行きがちですが、星野監督のときは本社に強力な支援者がいた。監督・コーチで「鬼」と「仏」の役割を補完しあえた。IBMを見事に再生させたガースナー氏は間違いなく優れた経営者だと思いますが、否が応でも全社に危機感がみなぎる状況、メインフレームビジネスをよく知る実兄がIBMのシニアポジションにいたこと、参謀となる人事部長とCFOに良い人物を得たことなど、個人以外の環境も無視できません。重すぎる荷物(自分への期待)を少し軽くしてみませんか。

  3. あなたが組み上げた石垣は、誰かが崩しても、一度組み上げたところまではすぐに積み上がる(無駄にはならない)

    魔王と言われようが、今組織が進む道を示し、やらせきる。その後に、部下に優しいだけが長所のリーダーが来て、組織を甘やかし、あなたの築き上げた資産を台無しにしてしまったりすることは良くあることです。しかし未来に向けてまいた「種」は時を経て芽吹いてくることがあります。外資系の某製造業日本法人が業績不振で閉鎖寸前になった時、当時の幹部と課長達が一枚岩となりV字回復を遂げたのもつかの間、次に来たトップが折角良くなってきたものを全て否定し、業績も組織もガタガタになっていった。しかしそのトップが去った後、V字回復時に課長だった1人が工場長として組織を以前の水準以上に立て直し伝説の工場長となり、しかも米国本国の工場まで立て直していった話はNHKのドキュメンタリーにもなりました。あなたが去った後でも、まいた種は芽吹いてきます。どんなことも無駄にはならないようです。

 

このように、「魔王化」しやすい時期を乗り越えるためには、経営リーダー自身が自分を許すことがまずは大切です。

そして「自分を許すこと」の次に大切なのは、魔王化しやすい時期を乗り切るための智慧を得ること。

組織の変革期は、リーダーに外から内から様々な圧力がかかり、「魔王化」しやすい時期ですしかし、その圧力を自分と組織のフェーズを変えるための力に変換できれば、素晴らしい瞬間を味わえるチャンスです。

次号以降のコラムでは、経営リーダーの方々やその周囲の方が、リーダーの持つ「力」を組織に対してより効果的に使い、その結果として起きてくる自他の変化を楽しめることを願って、次号以降、「組織開発」「組織行動学」に関する智慧を、事例とともにお伝えしていこうと思います。

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社
代表取締役 松田 栄一