【組織開発コラム】
第1章 組織変革課題の元型
1.部門間葛藤の元型〜市場の環境変化に伴う製販研の葛藤(後編)

前号までのコラム前編中編では、「グローバル企業C社の部門間(製販研マーケ)葛藤」の症状と診断結果についてお伝えしました。

→コラム前編(C社の部門間葛藤の事例概要と組織開発チームの診断)
→コラム中編(組織診断のさらなる分析とそれに対する打ち手&結果)

前号までの復習も兼ね、組織診断モデル「コングルーエンス・モデル」に、組織課題に対する打ち手を重ねてみると図のようになります。

(全ての打ち手とその結果の詳細に関しては、前号コラムの中の「どのような手を打ったのか」「その結果どうなったのか」を参照ください)

 

これらの長期的・短期的打ち手により、組織変革の成果は確実に現れてきていましたが、実はこの15年後にはA事業部は消滅してしまいました。

ここからはC社の事例について、他企業でも学べる普遍的要素(良い点・残念な点)を考察していこうと思います。

 

他の組織にも参考になる良かった点

「スモールグループ」を組織構造に取り入れ、上部組織がサポート

上記の図を見ると、望ましい状態にむけて組織システムが変化するように、非常に有機的に手が打たれている事がわかります。

特に、人々の能力やリーダーシップスタイル及び組織文化の変革には非常に時間がかかるので、【組織】の部分でマーケ製販研のスモールグループ(プロジェクトチーム)と、それをサポートする上部組織(資源配分チーム)からなる構造にしたのは良い判断です。(短期的打ち手①)

しかもそこにチーム・コーチングを絡ませて、新しい協働スタイルへの移行をサポートしているのは理にかなっています。(短期的打ち手②)

 

注目される「自律型組織」

最近、組織開発の世界では「ホラクラシー」という、経営リーダーのリーダーシップに依存せずに「自律型組織」を作る方法論が注目されていますが、C社の事例もこれに非常に近いコンセプトです。

→組織開発豆知識②「ホラクラシー 」(筆者のブログにて解説しています)

社員の意識を変えるのは、例え創業社長であっても大変なことです。

生物学をモデルに独特の経営をしている株式会社前川製作所も、組織構造を変えることで社員の意識を変えていった会社です。

前川製作所は1973年の第一次オイルショック当時、突然の環境変化で既存事業の大縮小が予想される中、「多角化成長」を最重要課題として掲げました。
しかし、当時の組織文化は「“失敗してもいいから、やってみろ”という雰囲気があると同時に“失敗しても良い”に甘んじる嫌いもある」という風潮で、経営者の掛け声だけではなかなか経営目標を達成できない状況にありました。

そこで独特の組織構造「独法(=マーケ製販研からなる独立採算のスモールグループ)」制度を取り入れる経営判断をしました。

この仕組みを導入することで「それまで各部門の長に過ぎなかった30代や40代の者が、中小企業の社長として経営責任を持って仕事しなければならなくなる。すると経理や資金繰りまでを考慮したビジネス感覚が必要になり、経営者としてのマインドが磨かれていく。営業先の社長と話す際には同じ目線と迫力でビジネスについて語れるようになっていった」(前川正雄顧問)そうです。

 

残念だった点

C社の場合、受注型製造業の前川製作所とはビジネスが異なり、より見込み生産型だったこともあって、プロジェクトをそのまま前川製作所の「独法」のような定常的な組織構造として取り入れるのは難しかったと思われます。

しかしながら、次の3つの点について配慮を欠いたことが、結局は長期的な失敗につながってしまったように思われます。

 

1.     部門最適力学を緩和する管理会計制度変更の見送り

せっかく他部門の人とプロジェクトを一緒にやって、新しい行動スタイル・価値観を身につけたメンバーがいたとしても、元の所属する組織に戻った時に、新しいスタイル・価値観を啓蒙していくのは「裏切り者」と呼ばれるリスクが大きく、非常に困難です。

だからこそ、管理会計制度(業績評価制度)に着手する必要があったのに、そこに手をつかなかった影響は大きいと思います。

 

2.     部門間リーダーシップシフト(製造からマーケティング部門へ)への配慮不足

C社の事例では、「現在の環境下ではマーケティング部門がリーダーシップを持つべき」ということを、プロジェクトチームに入ったメンバーはある程度納得もしたでしょうが、組織全体でそうした大きなリーダーシップのシフトを行うことは困難が伴います。

マーケティング部門の人よりもはるかにビジネス経験も長く、マネジャーとしての迫力もある製造部門や開発部門の有力者を、マーケティング部門の長として引っ張ってくるなどの配慮もしておけば良かったと思います。
日本の多くの製造業でも似たような部門間リーダーシップのシフトで苦労している話をよく聞きます。

この部分を上手くやっていると感心するのは米大手化学メーカーの3M社

3M社は“どの部門”ということにはこだわらずに、現場の起業家として新規事業を育む資質のある人間に事業を率いらせ、その“社内起業家”を、上位の経営層がベンチャーキャピタリストのようサーバント・リーダーシップ(支援形リーダーシップ)で支援する仕組みを取り入れています。

3M社の組織経営の仕組みは非常に面白いので、次のコラムで「組織変革元型2」として事例研究の対象として取り上げたいと思います。

 

3.     親会社と新規事業との距離感(過干渉からの保護)への配慮不足

経営思想家として有名なゴビンダラジャン氏らは、著書『ストラテジック・イノベーション』の中で「戦略的新規事業子会社と親会社との距離感を上手にマネジメントすることが、新規事業の成否に大きな影響を持つ」と指摘しています。

 

C社のA事業部は上図にある「戦略的実験事業」にあたると思いますので、あまり本社のロジックで干渉を受けすぎると事業自体が駄目になってしまいます。
事業部長の鈴木氏は、本社リソースの「借用」の必要性は認識していたものの、「忘却」の必要性についてはあまり留意していなかったようです。

また、新規事業のトップと本体のコア事業のトップは、そもそも対立しやすい構造になっています。

コア事業のトップの使命はコア事業の利害を守ることであり、在任期間も長いケースが多い上、コア事業のほうが規模も大きいため、利害対立があった場合に組織内根回しも有利に進めやすい場合がほとんどです。

一方で、新規事業は対極的な発想が必要で、投資利益率もすぐにコア事業のレベルを求めるのは酷なはずですが、得てして立場が弱く、本体の力学に押し切られてしまいがちです。
(新規事業がコア事業の投資利益率を求めて失敗した事例は、コダックの経営破綻が有名ですが、日本でも似た話をよく耳にします)

 

ゴビンダラジャン氏らは「このジレンマを解決するには、本体と新規事業を結ぶ『ブリッジ』の役割を果たす上級幹部が両者のコーディネートをするべきだ」と主張しています。

コーディネート役の上級幹部が新規事業と本体の協調関係を見守り、二社間のあつれきが健全で建設的なものであることを確実にし、必要とあれば仲裁に乗り出し、両者の事業本部長から等しく報告を受ける役割を担うのです。

今回でC社A事業部についての事例研究は終わりますが、似たような部門間葛藤に悩む組織は多いと思いますので、少しでも現状の見立てと解決策を考える際のヒントになれば幸いです。

 

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社
代表取締役 松田 栄一