名著「失敗の本質」に見る部分最適化した組織同士のコンフリクト ~「失敗の本質」×プロセスワーク~

名著「失敗の本質」に見る部分最適化した組織同士のコンフリクト ~「失敗の本質」×プロセスワーク~

“「現れ出ようとするもの」への個と集団へのコーチング” 第8回

● 名著「失敗の本質」が語るガダルカナル敗戦の様子

「失敗の本質」と題された第二次世界大戦時の日本軍の組織論の研究書はあまりにも有名です。ビジネスパーソンたちがこれを読む理由は、現代の営利企業においても、その教訓があてはまるからです。このコラムでは、いくつかの重要な戦いのうち、ガダルカナル作戦を取り上げて書籍による分析を紹介した後、その学びを企業組織にあてはめ、さらにはプロセスワークを活用したコーチングであればその問題解決にどう取り組むのかをお伝えします。

書籍によると、「ガダルカナルでの失敗の原因は、情報の貧困と戦力の逐次投入、それに米軍の水陸両用作戦に有効に対処しえなかったからである。日本の陸軍と海軍はバラバラの状態で戦った。」とあります。状況を順にみてゆきましょう。

まず日本軍はガダルカナル島に飛行場を建設中でした。1942年8月7日。米軍はガダルカナル島に上陸。米軍を甘く見た大本営は8月10日にわずか2000人の一木支隊に島の奪回を命じました。実際に上陸していた米軍は海兵第一師団1万3000人。結果は8月20の一木支隊全滅で終わります。

その後日本軍は第1回の総攻撃を企画します。が、飛行場を奪われた日本軍は制空権を失っていました。そうなると普通の大型輸送船での物資輸送では速度が遅く敵に見つかって攻撃される可能性が高いです。そのため、本来は戦闘艦である高速の駆逐艦を使って輸送をすることになりました。これは夜中に少しずつ高速で運ぶ「ねずみ輸送」とも揶揄されました。本来必要であった豊富な物資を受け取ることができなくなった陸軍からは以下の不満が出ました。

1)海軍は任務遂行よりも自己艦船(大型輸送船)の保全を第一としているのではないか?

2)海軍は戦況がどうであれ、いつも敵の空母・艦船のみを攻撃目標としているのではないか?(我々陸軍を支援することには実は興味・関心が無いのでは?)

3)海軍には敵軍の輸送船を撃沈して戦局を有利にしようとする意志が認められない

詳細は割愛しますが、9月12日~13日の川口支隊によるジャングル迂回の夜間奇襲攻撃(第1回総攻撃)は失敗します。同様の発想で実施された第2回総攻撃も失敗。日本軍は撤退を決断しました。ガダルカナル島に投入された日本軍は約3万2000人。そのうち戦死が約1万2500人。戦傷死約1900人。戦病死約4200人。行方不明約2500人にのぼりました。

● 敗戦の原因は陸軍・海軍の「統合作戦の欠如」

いつくかの敗戦の原因が「失敗の本質」で指摘されていますが、その中で興味深いのが「統合作戦の欠如」です。米海兵隊は、陸・海・空の組織的統合による共同目標への整合的な攻撃力の集中に長けていました。一方日本軍は陸軍と海軍がバラバラの状態でした。ガダルカナル島に限らず、太平洋戦争の重要な場面では陸海共同作戦が含まれることが多かったのですが、往々にして両者の妥協による両論併記的折衷案が採用さることが多かったとのことです。

これには根深い歴史が関係しています。約40年にわたって、陸軍はソ連を仮想敵国としてアジア大陸での陸戦に、海軍はアメリカを仮想敵国として太平洋での海戦に、個別に最適化していました。よって共同作戦の際にとことんまで本音で議論して共通目的を達成しようとする日本軍全体としての組織文化が欠如し、むしろ互いへの不信感が増幅していったのでした。

● 高度に部分最適化した組織同士のコンフリクト

我々の組織開発コンサルタントしての経験上、上記と全く同じ構造が現代の企業組織にも多く存在します。典型的なのは、製造業の会社の、製造部門と営業部門のコンフリクトです。

本来であれば、同じ会社での最終目標、すなわち利益の向上に向けて協力し合う2つの組織のはずなのです。利益は売上からコストを引いたもの。営業部門は売上の向上に努力し、製造部門はコストの低減にまい進する。その結果会社の業績(利益)は向上するはずです。

ところが残念ながら、上記のような本来の姿はむしろ稀であり、以下のようなことが頻発します。

<製造部門が営業部門に抱く、いら立ちや不信感>
・せっかく品質の良い製品を作っているのに営業部門が手を抜いたため売れ残りになった!
・営業は自分たちの売上ノルマ達成のために、お客さんの要望に安請け合いしすぎだ。そんな高いスペックの製品をこのコストで作れるわけがない
・営業は欠品が怖いから、高めの需要予測を出してくる。そして売れ残った責任は我々工場がとるなんて、おかしくないか?

<営業部門が製造部門に抱く、いら立ちや不信感>
・本気で売ろうとしているのに、こんな低品質の製品だと競合に勝てないよ!
・工場が出してくる納期じゃあ、競合に負けてしまう。その結果、責任を負わされるのは我々営業だなんて、おかしくないか?
・お客さんの要望を製造に伝えたら「出来ません」と言われた。本当は嘘だろう。自分たちが面倒なことをしたくないだけじゃないのか?

● プロセスワークのフェーズ理論を活用した組織へのコーチング

ここでプロセスワークの関係性のフェーズ理論を使って上述した問題を分析し、解決へのヒントを得たいと思います。

フェーズ1:関係性はうまくいっています。平和でコンフリクトがありません。でも、実はこの段階から次のフェーズへの仲たがいの種のようなものが潜在的に埋もれているのです

フェーズ2:緊張感が高まり、コンフリクトが起きます。そして激しい言い争いが起きたりします。(あるいは葛藤が潜在化して、両者のコミュニケーションの齟齬が生じるなど問題(症状)として現れる。)

フェーズ3:本当の意味の相互理解が起きた状況です。相手の役割(ロール)に立ってみると、その気持ちが深いレベルで共感できています。(相手の立場や気持ちが、ほんの少し自分ごととして理解できている状態です。)

フェーズ4:多くの場合、フェーズは1から3で順番に回りますが、時に4を体験することもあります。完全にリラックスしてとらわれの無い状態。大いなる宇宙を感じ、それに動かされている体験です

● フェーズ1.5から2へ対立を顕在化させ、そしてフェーズ3へ

日本軍の例に戻ると、陸海軍両組織の間で違和感が生まれたものの、コンフリクトが顕在化したわけでもありません。「折衷案を採用」というエピソードが典型的に状況を表しています。いわば、フェーズ1.5という段階です。企業組織においても、お互いに不信感を抱いているが公の場で「言い合い」をするわけでもない状況があるとすると、同じくフェーズ1.5と言えるでしょう。

そうしたケースでは、プロセスワークを用いたコーチングにおいては「対立を顕在化」させることが重要です。「なんて乱暴な」と思われるかもしれませんが、ここは丁寧に、かつ妥協なく進めます。

例えば、まずは製造部門の人たちだけに集まってもらいます。そして会議室またはセミナールームの中に、物理的に「製造部門の場所」と「営業部門の場所」を作ります。椅子を並べても良いですし、フロアにテープを貼って、場所を仕切る場合もあります。

まずは製造部門の人たちが営業部門に向けて(彼らがあたかもそこにいるかのように)、日ごろから感じている不満や不信感をどんどんと声に出してもらいます。本当の営業部門の人は誰もここにいませんので、喧嘩が勃発する心配はありません。スッキリするまで言いたいことを言えたら、何人かの人に営業部門の場所に物理的に移動してもらい、営業部門の役割(ロール)をとってもらいます。その場にいる気分を本気で味わってもらいます。そして、営業部門の人になったつもりで、製造部門の人に言いたいことを言い始めます。ここに置いて、フェーズ1.5からフェーズ2の葛藤が顕在化した状況が体験できます。

疑似的な激論が起きるなか、各自は自由に、2つの場所を行き来します。こうして、対立をとことん顕在化させるとともに、役割(ロール)をスイッチすることで、真の相互理解であるフェーズ3への手がかりを皆がつかみはじめます。相手の立場や意見の一部は自分のものでもある、という洞察が生まれやすくなります。大切なのはやりとりを通じて、それぞれの立場にはそれなりの理由があると知ること、またその奥底には(エッセンス)にはポジティブな願いがあると知ることです。誰もが葛藤したいわけではないのです。

この後のやり方は様々なオプションがあります。例えば同じことを営業部門のメンバーだけで行う。そして、少人数のメンバーで、製造・営業の合同合宿を行う。合宿の前にお互いが相手の立場について理解して想像できていれば、合宿ははるかに生産的な方向に向かいます。最後にその合宿で話し合われた方針を製造・営業の多くのメンバーがいる場所で発表し大勢で意見交換するなどです。結果としてフェーズ3を実現することが出来るでしょう。

●まとめ

大きな組織では役割分担が行われるのが当然です。それが海軍・陸軍だったり、製造・営業だったりします。そして、その役割が時間と共に高度に部分最適化し、両組織の統合作戦が成り立たなくなるのは、ある意味当然の成り行きともいえます。重要なのは、フェーズ1.5にとどまって偽りの妥協でお茶を濁すのではなく、勇気をもって対立を顕在化すること。そして、そこから本音の対話を行って、コラボレーションの成果を実現することです。フェーズ1.5に留まり続けることが、我々日本人の民族的特徴だと仮定すると、上述したプロセスワーク的な組織への働きかけが、これららの日本企業にさらに必要となるでしょう。

認定プロセスワーカー 松村憲
組織開発コンサルタント 西田徹

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