#ミドルリーダー

住友ベークライトの未来を創る組織開発〜戦略実行の鍵はトップダウンとミドルアップの融合。経営トップが変革の器をつくり、文化と人材を活かした成長戦略を実現する〜

社名
住友ベークライト株式会社
業界
化学・素材メーカー
対象組織
ミドルリーダー
対象人数
5000-10000名

住友ベークライトが推進する組織変革。その背景にあるのは、トップダウン文化から脱却し、現場の知恵と活力をいかに経営の成果へ繋げるかという切実な問いです。かつては「言っても無駄」という諦めが漂っていた現場に対し、鍜治屋社長は自ら対話の場に立ち、経営とミドルの認識のズレを埋める「組織開発」の取り組みを断行してきました。

本記事では、鍜治屋社長に、経営チームの意識改革からミドルアップの活性化、そして組織の枠を超えた「One Sumibe活動」へと至るプロセスと、その過程で起きた組織の地殻変動について詳しく伺いました。

INDEX

住友ベークライト株式会社 代表取締役社長 鍜治屋伸一氏(以下、プロフィール)

プロフィール(インタビューが行われた2026年1月時点)

◾️鍜治屋伸一氏
・1989年 住友ベークライト株式会社 入社
・1989年~2011年3月まで、同社の高機能プラスチック事業の営業に従事、
 その間、インドネシア駐在も経験した。
 (2001年4月~2004年4月 P.T. INDOPHERIN JAYA)
・2011年4月~ 情報通信材料営業本部に異動し、営業部長、営業本部長を歴任
・2019年 執行役員、2022年 常務執行役員、2024年 取締役専務執行役員、
・2025年6月 代表取締役社長に就任
※2024年度は高機能プラスチックを統轄
※2025年度4~6月はクオリティオブライフ関連製品を統轄

「上が決める」組織の限界。トップダウンとボトムアップの両輪が必要

Q.近年業績も好調な中、商品力に甘んじることなく、組織の力を引き出す取り組みにも力を入れてこられました。まずはその背景や想いを聞かせてください。

鍜治屋さん:取り組みを開始したのは2017年頃からでしたが、当時はトップダウンが強く、上が決めて、それに全体が従って一斉に動くという状態でした。部長クラスが、「上が言っているから」「会社の方針だから」とそのままトップの指示をメンバーに落としてしまうと、モチベーションも湧かないし、ミドルも考えなくなってしまいます。世の中もどんどん変わっていくので、経営層も全てを理解しているわけではなく、見えないことも多いです。現場を見ている人が「こう思う」と発信し、ミドルがそれを受けて、経営に上げていくという流れを作っていくべきだと感じていました。

私が入社した頃は、意思決定が現場に任されていて、営業部長や課長が判断して、全部決めていたと思います。身近な先輩と相談して、現場で決めて動いていましたし、自分たちで決められるのでスピードも早く、お客さまへのフィードバックもできていました。その後、バブルが崩壊し、環境が変わり、損益的にも厳しい状況の中で、権限・決定権がどんどん上に上がり、経営が決める流れになっていった印象があります。

2011年に高機能プラスチック事業(HPP)から情報通信材料事業に営業部長として異動した時が1つのきっかけになりました。当社の情報通信材料事業は世界中に事業を展開していて、各地に営業担当者がいました。現地で色々なことが起こっているが、本社が権限を持っていて、現場で何も決められないという状態です。例えば、シンガポールや中国の担当者が「どうしましょうか」とお伺いを立てて、日本から指示を出す体制だったので、スピードが上がりません。「どうしましょうか」と聞かれても、本社の私も顧客との関係などがわからないから、現地で決められることは現場で決断をしてほしいと思っていました。
そこで、地域営業部長制にして、できるだけ現地・現場で決めてもらうようにしました。現場のメンバーに徐々に考え方を変えてもらい、結果的に浸透するまで5年ぐらいかかったのですが、各地の営業部長に権限委譲をする方向に大きく舵を切り始めました。

現場が経営チームに遠慮して言わなかったら、うまくいかないことが繰り返されます。おかしいと思ったらすぐフィードバックしてもらって、経営チームは正しい方向にすぐに軌道修正をしなければ激しい環境の変化についていけない。トップダウンとボトム・ミドルアップのどちらも重要だと感じました。ただ、当時は下から上がってくる情報や思いが、まだ足りないという課題認識がありました。

組織変革の取り組み当時の背景、ご自身の原点にも触れていただきました

想像以上に「わかっていない」。経営とミドルの認識のズレに気づくのが出発点

Q.私たちが最初のご支援を始めたのもその頃でしたが、最初に課長以上の全員にアンケートを行い、経営チームの合宿からスタートしました。ミドルから多くの不満の声も聞こえてきましたが、経営チームでどのように受け止めていましたか

鍜治屋さんお互いよく理解できていなかったのかもしれませんね。我々はミドルアップが足りないと思っていたけれども、下からすると聞いてくれないじゃないかと。「どうせ言ったって」という諦めもあったようです。こちらが受け取る姿勢はあるよと思っていても、伝わっていなかったので、お互いの課題だったと思います。

Q.その後、経営チームのビジョン合宿を経て、タスクフォース型プロジェクトを始め、ミドルの課題意識を経営陣にぶつけて対話するというステップに入っていきました。どのような変化があったでしょうか

鍜治屋さん:このような取り組みに時間を取れていなかったので、とても良い機会でした。多くの人が手を挙げて「組織を変えたい」という非常に強い思いを持って参加してくれました。彼らと色々な議論をして、提言してくれて、本当に感謝しています。

ミドルが「経営チームはわかっているだろう」と思っていることを私たちはわかっておらず、経営チームは「あいつら、わかってない」と思っていたけど、彼らの考えをいろいろ聞いて受け止めてみると、「そういうことを言っていたんだ」ということが分かったのです。「わかっているはずだと思っても、想像以上にわかっていない」ということがわかったのが一番大きくて、双方の理解が深まりました。

例えば、最初はミドルから経営チームに対して否定的な意見もあり、「経営は戦略を持っていない」などと言われましたが、社史を読み解くなどミドルが自分たちで考えて調べていく中で、「戦略がないと指摘したけど、実はしっかりとした戦略があった」ということを理解し、経営に筋が通っている部分を改めて確認して、「じゃあこうしましょう!」と新たな提案をしてくれました。

一生懸命、事業の戦略を考えて、私たちに提案してくれて、とても良い機会でした。会社も提案を受け入れ、経営チームの議論にも入ってもらって、「どんどんやってみよう」と伝えることで、彼らも成長してくれたと思います。結果を社内に積極的にプロモーションしていくというのも良かったと思います。

経営チームのリーダーシップ改革。360度フィードバックからの気づき

Q.経営陣のリーダーシップも見直そうということで、360度フィードバックも行いました。どのようなインパクトがありましたか

鍜治屋さん:みんなに「よく見られている」というのが客観的にわかりました。全方位からの「自分の姿」がよく理解できます。私の場合、「部下に(戦略などを)伝えていると思っていたのに、あまり伝わっていなかった」ということに気づけました。本当にやりたいことを伝えたつもりでもほとんど届いてない、ということが一番の課題だと感じました。自分がこうしたいということはもっと発信していかないといけないと学びました。

経営チーム合宿では役員同士でお互いの360度フィードバックを見せ合いながら話もしました。各役員のフィードバックはまさにその通りだなと思って、笑ってしまいました。仕事だけでなく、人生の背景なども含めて性格面もお互いに理解すること、なかなか変えられないジレンマを共有することなども大事だと感じました。それぞれ全然違う畑で育って、強みも全然違うので、その違いを理解して認め合うことは、その後の事業運営でとても役立ちました。

やっぱり、経営陣同士の仲が悪いとダメですよね。組織の壁を超えてサポートできるかが大事です。最近、投資家の皆さんにも言われるのですが、決算説明会などで各事業の役員が並んで説明をした後、役員同士がすごく仲良く話しているように見えるそうです。そういう姿は珍しいようで、役員間のコミュニケーションの良さは一つの強みかなと感じています。

これまでの取り組みを振り返り、その成果や葛藤を語っていただきました

原因の原因を探る「氷山モデル」。対症療法から脱し、本質的な組織の立て直しに挑む

Q.その後、高機能プラスチック事業(HPP)のトップとしてご異動後も、同じような形で経営合宿やクロスファンクショナルチームでの取り組みを行いました。どのような気づきがあったでしょうか

鍜治屋さん:取り組みを行った時(2024年度)はHPPに異動してすぐだったので、どこの部署にどういう人がいて、世界にどういうチームがあって、どこをもっと強化しないといけないか?など、組織全体を俯瞰して見て、組織を立て直す機会でした。弱いところを強化するためにマーケティング部門を新設しようなど、組織を変えていくことをみんなで議論できたのが良かったです。私も13年ぶりにHPPに戻って、体制もすっかり変わっていたので、今のメンバーと一緒に全体を俯瞰しながら、「どうやって変えていくか」という議論ができて、良い方向性を短期間で出せたと思います。

Q.合宿やタスクフォースの対話の中で、気づきや変化を感じた点が他にあれば教えてください

鍜治屋さん氷山モデル*の話は勉強になりました。見えているのは氷山の一角で、本質はもっと下にあって、原因の原因を探っていかないと、本当に必要な対策を打てないという所です。対処療法でできた感じになっては良くないと考えさせられました。

あとは「群盲象*」の話ですね。みんなが象を見ているけど、どの方向から象を見ているかで、見えている姿が実際には全然違う場合が多いという話をしてもらって。だからミドルとの対話の中でも、「否定をしてはいけない」という意識を持とうとしたことが印象に残っています。自分とは違う視点で見ていることを最初から否定すると、誰も何も言わなくなってしまう。異なる意見をみんながちゃんと出せて、自分が見えないところを補ってくれている。「自分に見えている世界なんて本当にたかがしれているので、みんなが違ったことを言うことを否定しない、ありがたいと思う」というのは学びとして大きかったです。

細かいですが、情報通信材料事業の時に行ったYS法*も面白かったです。ミッションをブレークダウンしていって、自分でやるべきことと、部下にやらせることにしっかり分ける。何でもかんでも自分でやろうとするのではなくて、仕事をうまく委譲していくこと。職位が上がれば上がるほど、人に任せないといけなくなります。営業部長として一番近くでやっていると何でも見えて自分で判断できていたところから、上の立場になり現場から離れていくとどんどん見えなくなるので、見えなくなった時にどう判断するか、というのは結構難しい課題だと感じていました。

*YS法:組織のミッションや目標をブレークダウンし、「戦略的課題」と「重要度が低く優先順位を下げる課題」、「リーダー自らが実行すべき業務」と「部下に委譲すべき業務」に切り分け、小さな努力で大きな成果を得るマネジメント手法。経営とミドルの役割分担・権限範囲を明確にし、組織全体のスピードと実行力を高めることを目的としている。

「氷山モデル」と「群盲象を評す」

発信と対話。経営に見えている景色を現場に届け、危機感と期待をともに創る

Q.これまでの取り組みを踏まえ、具体的にどのようなチャレンジやアクションをされていますか

鍜治屋さん:HPPに異動してからもできるだけ発信するようにしましたし、社長になってからも、なかなか伝わらないということを念頭において、いわゆるタウンホールミーティングのような形ですが、各工場・事業所で社長懇談会を行っています。全拠点を回って、各1時間ぐらいですかね。最初30分は「私はこういう風にしたい」ということを伝えて、後半30分は参加者からの質問を受けて、双方向で対話していくものです。工場などの各拠点は年1回しか行けないので各回20-40人ぐらい、本社だと年4回行って各回8-10人ぐらいが参加してくれています。続々と質問もくるので、ありがたいです。

社長懇談会(尼崎工場)の様子

昨年は、「株式市場から我々はこういう風に見られていますよ」ということを伝えるようにしました。社長になって株主や投資家の皆さんと話す機会が非常に多くなりました。投資家との接点は社員にはあまりないですから、そういう話をし、こういう風に変えていきたいと伝えると、「そうなんだ」「知らなかった」という反応が多かったです。

また、今年は、年始に「挑戦」というキーワードを掲げたので、そこを中心に伝えていきます。(前任の)藤原社長時代に「人間力向上」「全社力向上」というキーワードで活動をしていたのですが、その上で、「みんなで力を合わせて挑戦していきましょう」というメッセージです。背景には2030年に営業利益550億円という目標を掲げ、今期は400億円を目指しています。ただ、その先が550億円なので普通にやっていると簡単に達成できない目標です。どうやってそこまで行くか、今まで通りではダメなので挑戦しなければいけない、では何をどう挑戦していくのか、という対話をしていきたいと思っています。

人的資本経営の話も大事で、「人が極めて重要」だということも改めて発信しています。皆さんがイキイキと仕事をして、成長を実感できたら、結果はついてくると思っています。逆に、やらされ感ばかりで他人事のように仕事をすると、当然結果は出ません。みんながイキイキと、本当に成長を実感して、働いてよかった、という会社になっていくために何をしないといけないか、対話しながら、会社を変えるための行動に移しています。

社長懇談会(本社)実施後に撮影

「仕組み」より先に「文化」が動かす。事業ポートフォリオ改革を加速させるソフトの力

Q.組織変革の中で取り組まれていた「One Sumibe活動」についても教えてください

鍜治屋さん「One Sumibe活動」は、もともとは特定のお客さまに対して、色々な部署が連携しながらより提案の幅を広げていきましょう、というところから始まりました。近年では特定のお客さまだけではなく、対象とする用途・領域を広げましょうということで、情報通信材料事業の半導体封止材を中心に、セミシンタリング材やHPPの絶縁放熱シートも一緒にパワーモジュールチームを結成して取り組んできました。すると、組織の枠を超えて連携することができて、結果的には「One Sumibe活動」から、パワーエレクトロニクスソリューション開発部という1つの部署ができました。もともと既存の組織と切り離して、パワーモジュール用に新たな素材を作ろうという流れだったのですが、研究や製造など関係部門との連携のしやすさなどを考慮して、正式な組織としてやっていこうという結論になりました。

また、現在、事業ポートフォリオ改革を進めようとしていて、HPPと半導体関連材料、QOLという3つの事業セグメントから、半導体(ICT)、モビリティ、ヘルスケアとライフイノベーションという4つの戦略領域を決め、そこに関係する人たちが集まり、お客さまへの提案を強化していこうと考えています。例えば、ICTをもっと強化しようとすると、各事業セグメントで持っている製品でもっと売れる可能性も出てくるし、各事業間でさまざまなアイデアが生まれてくると思います。手弁当で一生懸命メンバーが持ち寄って頑張ってくれるのは限界もあるので、もう一段進めるためにも、皆がやりたいことを全社でサポートできる組織に移行したいと考えています。2027年から始まる新中期計画の中ではしっかり取り組んでいきたいと思います。

Q.クロスファンクションの取り組みは、体制や仕組みを先に組まないと進まないことも多いですが、御社の場合、みんなで力を合わせる文化があるからこそ、そこからスタートしていけば、ポートフォリオ改革もソフトランディングしていくというイメージをお持ちでしょうか

鍜治屋さん組織だけ作って、「やれ」と言っても、動き出すには時間がかかると思っています。すぐに動けるところは自律的に動き出して、最終的に組織にできれば、自然とビジネスもうまくいくと思います。パワーモジュールの話も、私が情報通信材料事業にいて「One Sumibe活動」の推進責任者の立場になり、パワーモジュールを強化したいと思い「やりましょうよ」と言いました。特にHPPの絶縁放熱シートはお客さまとのコネクションが極めて狭かったので、同じお客さまなのだから、「全社ネットワークをもっと使えればいいじゃないか」と言って始めました。もちろん最初はうまく進まない部分もありましたが、少しずつみんなで課題に対応していきました。One Sumibeで1年、組織化して2年ぐらいで、すごい成果が出てきました。

顧客との共創 | 住友ベークライト株式会社
CS(顧客満足)向上 | 住友ベークライト株式会社

Q.最初から順調だったわけではないと思いますが、どのような苦労があり、何が突破口になったのでしょうか

鍜治屋さん:そうですね。最初は「忙しいのにやっていられるか」という人が結構いました。指田さん(当時、常務執行役員)が最初の推進責任者でしたが、ものすごく苦労をしていました。各事業部門が言いたいことを言うじゃないですか。「なんで人のためにやらなきゃいけないんだ」といった声を指田さんが調整しながらスタートしましたが、最初から今のようにはなっていなかったのです。5年ぐらい続けて、ようやく成果が見え出した感じです。

そこから「やってよかった」という声を発信してくれるミドルが出てきました。こういう風に違う部署の人と一緒にやると、違う考え方や情報も自分に入ってくるし、誰かのためにやっているのだけれど、結果的には自分にも返ってくるということがわかってくるタイミングです。やってよかったということを、ミドルがどんどん発信してくれるので、若手たちの捉え方も変わって「そういうことなら」と流れが変わっていきました。

エースこそ「越境」させる。所属部署の抱え込みを打破し、多様な経験を積ませる新システム

Q.先ほど人的資本経営のお話が出ましたが、御社での取り組みについてもう少し教えていただけますか

鍜治屋さん:すでにスタートしましたが、サクセッション・プランですね。そのためにも、エース級の人にどんどん経験をさせていく、どんどん越境させていくことに取り組んでいます。今までは、経験を積んでほしい人ほど、所属部署が手離せないといって、ずっと同じことをやり続けてしまう風土だったので、そういう人こそ多様な経験をしてもらう。こういった話は各部署だけではできないので、全部署のトップに入ってもらって、異動させていくというシステムを立ち上げていこうとしています。

私自身、フェノールの国内営業からインドネシアに行って、海外で初めて仕事した時の学びが多かったのです。今までと全然違う環境に放り込まれて、すごいスピードで色々なことを学びました。その後、名古屋、本社でフェノールの営業を経験し、情報通信材料事業に異動して、3年に1回ぐらいのペースで異動を経験しました。それぐらいの頻度が成長にはちょうどいいのではないかと感じています。

色々な経験をした方が、マネージャーになった時に幅広く判断できるようになります。このために制度も変えていった方がいいと思っています。もちろんスペシャリストが向いている人も居ますので、その点もケアしたいと思います。みんながやりたい職務について手を挙げてくれれば尚更良いので、自己申告の制度も変えていこうとしています。

あと、タフアサインメントという点を意識しています。同じ仕事を続ける方が多分楽ですけど、新しいことをやって、視線をあげて、刺激を受けて、多くのことを学んで、という状態を作っていくことを大切にしています。失敗することもあるかもしれませんが、まずは挑戦したことを讃える、もっとやりたいことを自由に提案できる雰囲気を強化できるといいなと考えています。

戦略と組織について行き来しながら、自社の未来への想いもお話しいただきました

Q.同時に御社の面白さとしては、シニア・ベテランの方が非常に真摯に真面目に働いていて、年下の上司の皆さんを支援しているのも美しいなと思って見ていましたが、どのような考え方を持たれていますか

鍜治屋さん:実際にそのように見えているのは嬉しいことですし、モチベーションが下がらずに頑張っているというのは、当社の文化として、みんなで協力し合おうというのがあるのだと思います。定年である60歳を過ぎても、会社に対するロイヤリティや仲間に対する関係性によって、頼られたら一生懸命やってくれる方が多いと思います。

すごく専門性も高いので、後輩たちから尊敬されている人が、一生懸命自分の技術を伝授しようとしてくれていて本当に感謝しています。

正解のない問いに決断を下す「社長の覚悟」。厳しさと暖かさを両立し、透明性を高めることで信頼を勝ち取る

Q.最後に、昨年社長になられて、自分の中で変わった部分と変わらない部分はありますか

鍜治屋さん:まず、言わなきゃいけないことはちゃんと言わないと伝わらないので、厳しいことも言わないといけないですね。皆さんが色々と提案や説明をしてくれますが、一生懸命頑張っているのはわかるものの、「そうじゃない」と思えば、私の意見をしっかり伝える。そこはふわっとせずに、できるだけ具体的に伝えるように意識しています。

あとは対話ですね。事業の責任者をしていた時は、幹部との定期的な打ち合わせはあったのですが、その先に普段は話す時間を取れない大勢の社員がいますよね。私が見えている世界はあまりにも狭いので、その大勢の社員とも意識して対話をしていかないといけない。現場や拠点ごとに社長に言いたいことを持っていますから、より幅広く、日本だけではなく海外も含めて色々な人とコミュニケーションをとって、課題を理解しようとしています。

社長就任した翌日に全社に向けてメッセージを発信

もう1つは株主や投資家の皆さんとの対話です。色々な方々がいらっしゃって、当社のことをよく見ています。皆さんとの対話から経営のヒントを得るとともに、「我々はこういう方向に向けてしっかり進みます、順番にステップを踏んでいきますからお任せください」と透明性を上げて外に発信するということも大事にしています。

あとは、これまで以上に考えることや判断することの重みが増しています。資料作りなどは任せるようにしていますが、例えば1月に公表した京セラからの事業譲受の件なども含め、社長の決断によって大きく変わります。本当に正解と不正解がはっきりしない微妙なところを決断しなくてはならない、というのは強く感じています。

ここまでお伝えしたように社内外の対話の時間をできるだけ取ることで、しっかりと理解しあう、信頼しあう組織を作り、当社が掲げるビジョン「お客様との価値創造を通じて、『未来に夢を提供する会社』」を目指していきます。

社長就任の翌日に全社に向けてメッセージを発信する鍜治屋氏

編集後記:組織開発は、経営の「受け容れ、自ら変化する姿勢」とミドルの「当事者意識の醸成」の交差点で生まれる

本インタビューを通じて強く感じたのは、組織開発における成功の鍵は、トップの「聞く姿勢」と「現場の文脈への歩み寄り」にあるということです。

多くの組織変革が形骸化する原因は、それが現場のリアリティから乖離した「理想論」に終始することにあります。しかし、住友ベークライトの事例では、鍜治屋社長自らが360度フィードバックを通じて「伝わっていない現実」を直視し、「群盲象を評す」の精神で異なる意見を歓迎する姿勢を示しました。このトップの変容が、ミドル層の「当事者意識」に火をつけ、実利を伴うクロスファンクショナルな連携へと繋がっています。

組織開発は一過性のイベントではありません。経営と現場が「共通の景色」を見るための、泥臭くも誠実な対話の積み重ねです。住友ベークライトの歩みは、伝統的な大企業が自律型組織へと進化するための、極めて実践的な指針となるはずです。

担当コンサルタント

取締役

山碕学(Manabu Yamasaki)

京都工芸繊維大学工芸学部生産機械工学科 卒業後、1990年バブル経済絶頂期にベンチャー系コンサルティングファームに入社後、一貫してコンサルティング業務に従事。中堅企業の物流改革に携わった後、大手企業の経営者を支援する事業変革に取り組む。2019年より現職。その間、38社・60事業部門・経営者52人の事業変革・組織開発を支援。2016年よりコーチングにも従事し、25社45人の経営者および次期経営者へのエグゼクティブ・コーチングを提供。また、大手自動車部品メーカー全マネージャー(事業部長~係長)1,200人への1on1コーチング・スキル獲得を支援。その成果をベースに公開講座「1on1コーチング講座」を企画・開発・運営。経済産業省にて本1on1コーチングプログラム採用。2024年度 経済産業省幹部向けコーチング事業者選定委員長。

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