#組織開発 2015/01/20

組織開発とプロセスワーク(前編)〜3つの現実レベルと変化のプロセス構造〜

  • 実践事例
  • 組織開発コーチング

本号からは、組織開発に使える心理学「プロセスワーク理論」をテーマに展開していきたい。

INDEX

氷山モデルとプロセスワーク

一般的に心理学(及びNLPを初めとする各種心理療法)は個人の内的側面を扱うものと思われているが、プロセスワークは集団心理も含めて扱うのが特徴である。 人や組織を考えるフレームワークとして「氷山モデル」が有名だが、このモデルの水面下を見ていく際の考え方として、システムシンキングと並びプロセスワーク(プロセス志向心理学)は有用な考え方である。

「3つの現実レベル」と「1次プロセス2次プロセス、エッジ」

組織にプロセスワークを適用していく際に、まず抑えておきたいのが、「3つの現実レベル」と「1次プロセス2次プロセス、エッジ」という2大概念である。

3つの現実レベル

・Consensus Reality:合意的現実レベル(以下CRレベル)
具体的、測定可能で、比較的予測可能。システムに属する全てのメンバーによって事実として合意されているもの。結果/パフォーマンスや行動、具体的な計画書、制度、組織体制など

・Dream Land:情念レベル(以下DL)
希望、夢、恐怖、期待、懸念と言った心のつぶやきレベル。コミュニケーションのパターンや組織文化の問題とされるもの

・Essence:エッセンスレベル
個人や組織という存在の源、チームスピリットや企業文化、組織の本来の目的の源で、社是、社章、ロゴなど込められている、言葉になる前の微細なエネルギー。雰囲気、ノリ

1次プロセス、2次プロセス、エッジ(変化のプロセス構造)

・1次プロセス:
自ずから意識的である表現領域、自己同一化している部分

2次プロセス:
無意識的であったり自己同一化してない領域、普段は無視/周辺化している事柄

エッジ:
1次プロセスと2次プロセスの境目にあるもの。心理的な壁、出来ると思っていることの限界。1次プロセスを維持し守るものであり「〜すべき/〜ねばならない」という信念。 人やチームがエッジに差し掛かると、エッジ行動(感情的になる、そわそわする、話しをそらす、汗がでる、怒る、顔が赤くなる)が出る

組織における事例から学ぶプロセスワーク

本節では、プロセスワークの2大概念を理解するための手始めとして、組織における重大事故やコンプライアンス違反事例をもとに考えて行きたい。

(1)事例:NASAスペースシャトル[コロンビア号]爆発事故

2003年2月1日、16日間の任務を終えたスペースシャトル・コロンビア号は、7人の宇宙飛行士を家族の待つ地球に届ける寸前、大気圏突入直後に機体が分解する事故となった。原因は打ち上げ時の耐熱材の機体衝突。この問題は以前の飛行でも何回か起きていた。飛行上非常に危険であるにも関わらず、これまでは大丈夫だったことからエンジニアもマネジャーも次第に慣れてしまっていた。 実際、当時のNASAでは打ち上げ時の問題に対して立ち上がった対策委員会の ハム議長は「我々に出来ることがあまりない以上、飛行中の問題として扱うべきではない」と早々に組織の中にある主流派の声を代弁して声明を出した。 しかし、現場に詳しいエンジニアチームの中では「損害を正確に査定するには追加データが必要であり。国防省の協力を得ることが重要だ」という声があり、彼らはそれを上司に申請した。しかし上司は、この非主流派の声を黙殺。怒ったメンバーは批判メールを送信した。ただし、非主流派の同僚に対して。結局、彼らの怒りの声は主流派である組織上層部には届かなかった。 この出来事の背景には”自分より地位のずっと高い人にメールを送ってはいけない”という組織の中の暗黙の前提(組織レベルではそれを組織文化という)が存在している。

(2)事例:JR西日本における福知山線脱線事故

2005年に死者107名、負傷者549人を出した大規模な鉄道事故。事故を直接ひき起したのは当時23歳になる運転士であるが、組織的側面も大いに関わっていると思われる。 当時の状況を公開情報を元に米心理学者のケンウィルバー氏の統合経営モデル(氷山モデルと組織/個人を統合して考えるフレームワーク)で整理してみると図のようになる。(水面下については筆者の推測)

特に水面下の「見えにくい」を見ると組織文化面と個人心理面で同じような1次プロセスと2次プロセスの構造があるように思える。 今回はプロセスワークの概念を理解するために組織におけるコンプライアンス事例を元に考えて行った。もちろん、法律や制度面も重要であることに変わりはないが、水面下の見えない部分についても同じように重要であり、その部分の理解のためにプロセスワークは素晴らしい視点と自覚をもたらすと考えている。 次回以降も様々な事例を通して、プロセスワークを理解することを促すことが出来れば幸いである。

この記事を書いた人

代表取締役

松田栄一(Eiichi Matsuda)

東京大学経済学部卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社。NTTグループのシンクタンクである情報通信総合研究所に出向し、主に日米電気通信事業者の資本政策や管理会計に関する調査研究・コンサルティングに携わる。その後、NTTにおいて海外進出時のブランド戦略、NTTコミュニケーションズ設立時の広告戦略を手がけた後、MBA教教育を手がけるグロービスにて企業内研修部門マーケティング統括リーダーを努める他、戦略、マーケティング等の講師を務める。現在はバランスト・グロース代表として組織開発コンサルティング、エグゼクティブコーチングを行う。

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