#組織開発 2014/08/25

組織開発とは〜企業事例(2):外資系メーカーA社工場の再生とその後(フェーズ2)〜

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今回は前回に引き続き「企業事例(2)」として外資系メーカA社工場の再生のその後の展開をご紹介して行きたい。

INDEX

◆状況

リストラ後の危機的な状況を乗り越えた後、経済環境が急速に好転する中、米国本社ではグローバルな製造戦略を検討していた。アジアに複数の製造拠点を持つ同社は、最近の日本法人A工場の再建も踏まえ、A工場に新たな戦略製品の製造ラインを立上げ、人員も3、4割増やすという積極的な投資を行なうことを決断した。リストラ後の危機を乗り越えたとはいえ、この拡大にともなう繁忙は、折角一枚岩になりかけたばかりのリーダーシップチームが再び分裂するリスクもはらんでいると考えた工場長から再び相談が持ち込まれ

「短期的な危機を乗り越えたが、今後の成長拡大路線に進む中で、タスク面、人/組織面でどのような課題に特に気をつけなければならないか。更にそもそも我々はどういう組織を目指すのかも皆と共に考えたい。今回の拡大というチャンス及びそれに伴う繁忙という脅威を、工場のシニアマネジメント、ミドルマネジメントの強化とよい組織文化醸成に活かしたいので、そういうオフサイトを企画して欲しい」という依頼であった。 工場長からは、さらに1つ注文がついた。「今回は前回のような危機意識を醸成しお互いのしこりを乗り越えて生存のために手を結ぶための強烈で厳しいものではなく、楽しいものにして欲しい」

◆我々の見立て

危機を乗り越える時は、すでに組織内には相当なマグマ(大抵は怒りと不満、その大元は恐れの)がたまっており、そのエネルギーを活かして、前に進むスイッチを入れれば良い。一方で目に見える危機に直面していない時は、前向きのエネルギーを個人と組織のビジョンを結びつけることで醸成していくことが重要となる。組織開発の世界では前者をバーニングプラットフォームアプローチ(石油掘削用プラットフォームでの火災を比喩に)、後者をポジティブアプローチと呼んだりする。(神戸大の金井先生は前者を「緊張系」、後者を「希望系」アプローチと呼んでいる) 今回は状況的にも、工場長が望むトーンとしても適するポジティブアプローチでオフサイトを構成する。
第3回コラムで書いた、見立ての枠組みでいうとこうなる

・Why(目的):
グローバル環境の変化に伴う積極投資という機会を活かし、工場の長期ビジョン、拡大期に直面する課題とそれに向けた重点アクション、そのアクションを通じてマネジメントチームがよりチームとして強化されていくための意図的な協働関係をつくること

・Where(どの部分):
個人の想い(In)を見つめ、組織のビジョン、バリューを共創し(In)、直目する組織の課題と重点行動(集団のOUT)、最後はこの局面に一人一人はどういう向き合うのか(個人のOUT)という、4つの象限全てを扱う

・What(課題の困難さ):
既にトップチーム及びミドルとの関係性も改善しているので、より個人の信念や本音を出しやすい状況。あえて工場外のステークホルダーとして日本法人本部の営業マネージャー、購買部長、サプライチェーンマネージャーも招待

・How(アプローチ):
上記のような見立てを踏まえて、ポジティブアプローチの代表的例のアプリシエイティブインクワイアリー(AI)※のワークショップフォーマットを用いて一人一人の思い、組織の強みから入っていって、ヒトと組織の最大限の可能性を描き、その上で直面する現状に向き合うという流れのオフサイトを行なった。

※Appreciative Inquiry (AI)とは:組織開発を考える上で、まず問いかけられる質問は「現状の問題点は何か?」が、最も多いであろう。ビジネスの世界では課題解決アプローチが主流のため、改善策を見出すために、何が障害になっているかという課題から入りやすいからだ。しかし、Appreciative Inquiry (AI) は個人や組織のポテンシャル(強みや、将来の可能性)にまず注目する。問いかけや探求(Inquiry)によって、個人の価値や強み、組織全体の真価を発見し認め(Appreciative)、それらの価値の可能性を最大限に活かした、最も効果的で能力を高く発揮する仕組みを生み出すプロセスのことでポジティブアプローチの代表例だ。今日までにノキアやヒューレット・パッカード、英国航空、米国海軍など多くの組織で導入され、成功実績を上げている。

◆結果

皆の想いから浮かび上がったビジョンとグッドサイクルが明確になり、そこに向けて今回の局面で取組むべき重点課題とアプローチも明らかになった。何よりもマネジメントチーム中にある活き活きとした何とも言えないポジティブな場の空気が生まれた。ちなみに、このとき出てきた重点課題の中で「ヒトが育つ組織」を作るというテーマに関しては、社内リソースでは具体的な計画策定と実行が難しいということで、引き続き別プロジェクトとしてサポートしていくことになる。 「あるべき人材像」「研修体系」「職場での仕組み・仕掛け(制度の運用、OJT、ミーティング)」「ビジョン浸透と組織文化づくり」という4つのモジュールについて、既に米国本社で全世界共通で作られた仕組みを活かしつつ、日本法人でカスタマイズ、運用の工夫を行なう形で、部長層達と双方向でやり取りしながら、半年かけて共に計画を作り上げていった。これらの取り組みは米国本社にも評価され、実際工場の成績を表す指標も向上していった。自信をつけた工場はこの後全社的な組織文化診断なども実施しながら、継続的な組織力向上に向けた取り組みを行なっていった

フェーズ2の一連の流れを俯瞰すると下図のようになる。

事例紹介の最終回となる次号では、別の企業の研究所に対して行なったエグゼクティブコーチングとチームコーチングなどを組み合わせて行なった事例をご紹介して行きたい。

この記事を書いた人

代表取締役

松田栄一(Eiichi Matsuda)

東京大学経済学部卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社。NTTグループのシンクタンクである情報通信総合研究所に出向し、主に日米電気通信事業者の資本政策や管理会計に関する調査研究・コンサルティングに携わる。その後、NTTにおいて海外進出時のブランド戦略、NTTコミュニケーションズ設立時の広告戦略を手がけた後、MBA教教育を手がけるグロービスにて企業内研修部門マーケティング統括リーダーを努める他、戦略、マーケティング等の講師を務める。現在はバランスト・グロース代表として組織開発コンサルティング、エグゼクティブコーチングを行う。

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