スティーブン博士の7つの教え〜プロセスワークと組織開発〜
米プロセスワーク研究所の前所長であり、私たちに多くの知恵を授けてくれる弊社特別顧問のスティーブン博士の教えをまとめています。
スティーブンは個人的に米国で大学院生をしている頃の私のアドバイザーであり、師弟関係から学ぶ部分が大きいプロセスワークの文字通りの師匠となります。弟子でもあった視点から、大企業の組織変革やエグゼクティブコーチングなど世界中でプロセスワークを実践してきた百戦錬磨の長老の教えを言葉にしてみました。
#組織開発 2019/02/10
「グローバル企業C社の部門間(製販研マーケ)葛藤」の症状と診断結果をもとにした、具体的な打ち手について概説します。
INDEX
前号では、「グローバル企業C社の部門間(製販研マーケ)葛藤」の症状と診断結果についてお伝えしました。その診断結果をさらに別の切り口から見てみたいと思います。
組織開発の分野で有名なナドラー-タッシュマン氏が開発した組織診断モデル「コングルーエンス・モデル」に、前号の組織開発チームの組織課題の見立てを配置すると、次の図のようになります。
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(診断①〜⑥の詳細に関しては、前号コラムの中の「組織開発チームの出した診断結果」を参照ください)
その見立てを踏まえて、その後C社ではどのような手を打ったのか、そしてその結果どうなったのかについて、本号でお伝えしていきます。
C社のA事業部はこれらの組織課題に対して、「短期的な打ち手」と「長期的な打ち手」をそれぞれ打っていきました。
(1)新製品開発を進める組織構造の変更
製・販・研・マーケの代表者で構成されるプロジェクトチームを設けることで、事業部の経営陣(鈴木事業部長・研究所長・事業部の総務部長)は製品開発プロジェクトの細部に渡る業務からは身を引き、自分たちは【資源配分チーム】として、プロジェクトチームへの人材や資金面などの資源の調整、再配分を行う機能を担うようになった。
機能していなかった毎月の製品開発検討会議も廃止され、四半期ごとにプロジェクトチームの代表が資源配分チームへ報告する仕組みに変更された。
(2)社内の組織開発コンサルタントによるチームコーチング
プロジェクトチームにおいて統合者としてリーダーシップを期待されたのはマーケティング部員だったが、彼らは他の部署から経験・スキル不足を不安視されていた。
そのギャップを埋めるべく、社内の組織開発コンサルタントがチームミーティングに出席して、チームビルディングとプロジェクトマネジメント手法を設定した。
また、継続的に彼らのチームワークを観察し、その結果をフィードバックし、議論の対立点を取り上げて、徹底的な話し合いをするようにサポートしていった。
(3)事業部の経営チームワーク強化
事業部の経営チーム(事業部長及び各機能のトップ)は、合宿を数回行い、事業部の今後の戦略について議論を重ねた。そしてその結果(戦略・経営理念)を事業部の社員に伝えていくことに時間を割くようになった。
また、これまでの経営チームはグループとしての一体感もなく、話す内容も目標数値と結果ばかりであったが、組織のアウトプットに影響する「コングルーエンス・モデル」の諸要素及びその関係性(自分たち経営リーダー層の言動、事業部の変化のために重要な影響を及ぼす業務と人物など)について注目し、議論するようになった。
重要な会議には組織開発室長が参加し、観察とフィードバックを行い、トップグループのチームワーク向上をサポートした。
(4)新事業部長へのエグゼクティブコーチング
新事業部長の鈴木氏にはエグゼクティブコーチが1年間つき、より効果的なリーダーシップを発揮できるように支援した。
(1)人材育成
職能間の統合を進めるために、「マネジリアル・グリッド」のコンセプトに基づき人材・組織開発計画が進められていった。マネジリアル・グリッドとは人材開発から組織開発を行っていく概念で、以下の6ステップで構成される
A事業部ではこのコンセプトを踏まえつつ、「課題発見・解決」、「マーケティング」についてのスキル研修、対人関係能力や協調性を高めるための「会議ファシリテーション」、「集団心理とリーダーシップ」研修を組み込みながら展開されていった。
(2)人事異動
職能間の人事ローテーションが行われるようになった。
(3)組織開発専門家の採用
この事業部の変化をサポートする専任のコーチ(個人及び集団へのコーチングができる組織開発専門家)が新たに社外から採用された。
一方で、社内組織開発チームから提言された、管理会計(各機能の業績評価制度)の変更は本社の抵抗を懸念し、見送られた。他にも、他事業部と事業特性の異なるA事業部に対して、本社との関係性に問題があることについて、新事業部長の鈴木氏が本社にそれを理解させ、関係性を変えていくことについては、提言に同意しながらも具体的な行動は起こさなかった。今後も本社からの人材や資金面での支援を受け続ける上で、マイナスに働く可能性を懸念したからである。
・新製品発売が増えた(年に2製品→9製品)のみならず、利益率も改善していった
・最終意思決定への社員の関与が深まり従業員の士気が向上した
・マーケティング部がより強力な立場から部門間の協力を促し、より優れた仕事をしているとみなされるようになった
・対立を解決する手段として「建設的対立」の形を取ることが増え、結果として問題解決の質が改善した(下図参照)
・事業部内の組織間協力及び本社研究開発部門との対話が活発になった(ただし製造部門とマーケの関係性は著しくは改善せず)
・統合機能としてのマーケティング部門の重要性の認識も飛躍的に高まり、事業の意思決定の中心的役割を果たすようになっていった

このように、組織変革の成果は確実に現れてきていたが、実はこの15年後にはA事業部は消滅してしまった。なぜか?
次号では、本ケースから他企業でも学べる普遍的要素(良い点・残念な点)について考察していきたい。
OTEHR
米プロセスワーク研究所の前所長であり、私たちに多くの知恵を授けてくれる弊社特別顧問のスティーブン博士の教えをまとめています。
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