#経営リーダー 2020/03/17

プロセスワーク・コーチングを紐解く(第7回):変革期の組織学習:ダブルループ学習 × プロセスワーク

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プロセスワーク・コーチング(GCI)を様々な理論やフレームワークと関連づけて解説するシリーズ第7回。今回はクリス・アージリスの「ダブルループ学習」を題材に、プロセスワークの視点で紐解いていきます。

INDEX

2つの組織学習

組織には、様々な変化に対応・学習して、打ち手を変化させる学習機能が備わっています。クリス・アージリスは、2つの異なるタイプの組織学習(シングルループ学習|ダブルループ学習)が存在することを指摘しました

シングルループ学習

サーモスタットを連想させるシングルループ学習

「室温が摂氏20度以下になると自動的に暖房を開始するサーモスタットはシングルループ・ラーニングの良い例である。もし賢いサーモスタットがいて、『なぜ僕は20度にセットされているのだろう?』と疑問を持ち、他にもっと経済的に部屋を暖め始める温度設定が存在しないかを探索し始めたとしたら、そのサーモスタットはダブルループ学習を行っていると言えよう。」(クリス・アージリス)

シングルループ学習の流れ

まず最初にメンタルモデルが存在します。メンタルモデルとは、個人や組織が現実世界をどのように認識し解釈しているかを指します。例えば、「マーケットシェア1番の会社が良い会社だ」「コストを下げ、商品を安く提供することこそが製造業の使命だ」といった認識・解釈です。

次にそのメンタルモデルに照らして意思決定ルールが決まります。例えば「マーケットシェア2位以下の事業は売却する」といったルールです。

次に意思決定ルールと外部から得られた情報の2つに基づいて実際の意思決定がなされます。
意思決定結果は実世界での試練に会います。意思決定の結果、利益や株価が倍増することもありますし、その逆の悲惨な結果を招くこともあります。

生じた結果は、情報という形でフィードバックされます。
その新しい情報と、意思決定ルールの2つに基づいて、次の意思決定がなされるというわけです。

シングルループ学習の長所と短所

シングルループ学習には以下の長所があります
・モデルが単純なので考えることよりも実行することに力を注げる
・意思決定ルールが適切であれば、成功の拡大再生産が容易

例えば、マクドナルドのように明確かつよくできた意思決定ルールが存在する企業では、世界中でその成功が拡大再生産され、今や世界中の人々がビッグマック、フィレオフィッシュ、マックシェークを味わっているわけです。

シングルループ学習の短所は外部環境変化に対応できないことです。例えば写真フィルムのコダックは、かつてはマクドナルドのような成功者でしたが、デジタル革命に対応できずに倒産しました。「問題を特定して解決するやり方」に問題があったのです。

コンピューターのIBMもシングルループ学習で大成功し、そして外部環境変化により、1980年代後半にコダックのように没落に瀕していました。が、1993年にCEOに就任したガースナーによりダブルループ学習を覚えて復活しました。

ダブルループ学習

ダブルループ学習の流れ

シングルループ学習では、なぜ外部環境変化に対応できないのでしょうか。それは情報のフィードバックからメンタルモデルをつなぐ矢印が存在しないからです。例えばコダックでは、ここに矢印が存在しないため、「銀塩フィルムの売上が落ちた」という情報は、「もっと広告費を投入する」「フィルムの新商品を開発する」といった、従来の枠から出ることのない意思決定にだけつながっていました。

ダブルループ学習で臨んだ冨士フィルムは異なります。同じ「銀塩フィルムの売上が落ちた」という情報は、従来の「我々は写真フィルムメーカーである」「写真フィルムは儲かるビジネスだ」というメンタルモデルを揺るがせました。そして、「写真フィルムには未来がない」「我々は化学メーカーである」という新たなメンタルモデルを獲得したわけです。

新たなメンタルモデルは、新たな意思決定ルールへとつながります。冨士フィルムの小森社長は「一刻も早く、フィルムビジネス以外で、我々の化学技術が生きるフィールドを探せ!」と大号令をかけました。そして行われた様々の意思決定とその後のトライ・アンド・エラーにより、抗酸化物質と、原材料を極めて細かく砕くという要素技術を生かしてアスタリフトという化粧品の大ヒットにつなげたわけです。

そもそものダブルループという名前についても触れておきましょう。シングルループ学習の図を見ると、グルグルと回るループが1つしかないのが明白です。一方ダブルループ学習の図では、もともとあったループに加えて、その外側を回る(メンタルモデルと意思決定ルールに影響を与える)、もう1つのループが観察されます。これが「2つのグルグル回り」、すなわちダブルループと呼ばれる理由です。

ダブルループ学習とプロセスワーク

激しく環境が変化する状況では、ダブルループ学習が必要なのはご理解いただけたと思います。しかし、これを実現するのは容易ではありません。多くの企業には小森社長やガースナーCEOのようなカリスマは存在しません。メンタルモデルの揺らぎは、「変革への抵抗」や「失敗への恐怖」につながり、またもとのシングルループ学習に戻るケースが大半です。そこでプロセスワークの出番です。

多くの企業は、まずシンプルなシングルループ学習のスタイルで成功します。ここが慣れ親しんだ場所、すなわち1次プロセスです。新しいメンタルモデルと新しい意思決定ルールの獲得は、現れ出ようとするものであり、2次プロセスです。そしてその間には見えない壁「エッジ」が存在し、変革を阻みます。

ダブルループ学習しか知らないコンサルタントは、理想の姿はわかるものの、どのように介入してそれを実現すれば良いかわかりません。そこにプロセスワークの視点が入り、「新しいメンタルモデル」「新しい意思決定ルール」が現れ出ようとしている2次プロセスだと見立てることが出来れば、エッジのトンネルをくぐり抜けるワークやロールをスイッチするワークなどの「お家芸」を使って、ダブルループ学習を実際にグルグルと回すことが出来るようになるわけです。

まとめ

我々は「総合格闘技型」組織開発を目指してきましたが、このコラムの内容が好例と言えます。ダブルループ学習の概念は秀逸ですが、それだけでは組織変革の介入方法がわかりません。一方でプロセスワークは変革を扱う素晴らしい心理学ですが、それだけでは営利組織に発生する重要なエッジを見立てられません。打撃と関節技の両方を使いこなすコンプリート・ファイターのように、「コンプリート・組織開発ファシリテーター」が求められていると感じます。

認定プロセスワーカー:松村憲
組織開発コンサルタント:西田徹

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この記事を書いた人

取締役

西田徹(Toru Nishida)

京都大学農学部農芸化学科(学士&修士)にて遺伝子組み替えを研究。(株)リクルート入社。組織活性化研究所にて組織文化サーベイの開発にたずさわる。ニューヨーク大学経営学修士を経て(株)ボストン・コンサルティング・グループ入社。経営戦略、組織戦略等のコンサルティングを担当。その後、(株)カレンを経て現職。マーケティング、経営戦略、ロジカルシンキング、ファシリテーション、コーチングなどを研修テーマとする。売上高約1兆円の米国系グローバル企業C社の上級リーダー研修を、アジア人初の認定トレーナーとして、ニューヨーク、韓国、台湾、上海などで実施(言語は英語)。
1998年にサンフランシスコにてコーチングに出会う。日本におけるCTIの1期生(2000年)。現在ではコーチングの基本を順守しながらも、経営戦略の視点、心理学(プロセスワーク)の活用を織り込んだ、「総合格闘技型エグゼクティブコーチング」を信条とする。

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