#経営リーダー 2019/10/11

プロセスワーク・コーチングを紐解く(第2回):10個の超シンプルな質問が深い自己探求への入り口になる(クリーンランゲージ×プロセスワーク)

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プロセスワーク・コーチング(GCI)を様々な理論やフレームワークと関連づけて解説するシリーズ第2回。今回は「クリーンランゲージ」を題材に、具体的なコーチング事例を交えて紐解いていきます。

INDEX

クリーンランゲージとは?

クリーンランゲージとは、心理学者デイヴィッド・グローブが開発したコミュニケーションの技法です。コーチングの場面でいうと、コーチはクライアントに対して「クリーンな質問」を行います。ここでいうクリーンとは、コーチの主観が入り込まず、純粋にクライアントの内面から発信される回答を引き出すことを意味しています。

例えば、「この職場で働く喜びは何ですか?」とコーチが質問したとしましょう。一般的には、何の問題もない、むしろ良い質問です。しかし、これをクリーンランゲージの世界からみると、「職場」という場面にコーチが限定してしまっていますし、「喜びを話せ」とコーチが誘導・湾曲しているともとれるわけです。本当はクライアントは喜びではなく悲しみを話したいかもしれません。一方で、「それはどんな感じですか?」といった質問にはコーチの誘導が入り込む余地がなく、この状況をクリーンと呼ぶわけです。よって、ここでいうクリーンとは「論理の趣旨が明快である」ことではありませんし、「『あの野郎』といった小汚い表現を使わないこと」でもありません。

もう一つのクリーンランゲージの特徴はクライアントにメタファー(比喩)を語ってもらう質問を行うことです。メタファーには自分の内面をより深く体験し、掘り下げる力があります。そのことがクライアントの深いレベルの気づきを引き起こし、大きな変容につながる可能性が高まるわけです。

このコラムではグローブのオリジナルの質問を、ペニー・トンプキンスとジェームズ・ローリーが発展させたものをベースにご紹介します。

クリーンな質問を使ったショート・コーチングの実例

では、クリーンな質問(図1)を使った短いコーチングの例(実例に若干の脚色を加えたもの)をみてゆきましょう。まず、クライアントのAさんが状況を簡潔に語ります。

Aさん:私は技術職の若手社員なのですが、4か月間の「応援派遣」という制度に自分の意志で応募し、営業現場に出て2か月がたちました。具体的には求人広告雑誌の広告枠の新規営業を飛び込み訪問を中心に行っています。同時期に経理から派遣されてきたBさんは、早くも2週間目に初受注したのですが、私は2か月たった今でも受注がゼロ。とても苦しんでいます。

コーチ:その苦しさは、どんな感じの苦しさですか?
 
Aさん:ええと。(少し思いあぐんだ後、何か気づいた様子で)泳いでも、泳いでも、岸にたどり着かない感じです。
 
コーチ:その感じはどこから来るのですか?
 
Aさん:(実際にクロールをするジェスチャーを始めて体験を味わっている様子で)めっちゃ泳いで、全力で泳いで。。。でも岸までの距離が全く縮まらないんです!
 
コーチ:それはどのあたりにありますか?
 
Aさん:(少し戸惑いながらも)うーんと、あ。喉のあたりにあります。そう、息が出来なくなりそうなくらい苦しいんです。
 
コーチ:その直前には何が起きましたか?
 
Aさん:前の部署(技術部門)では、むっちゃ泳いだら、あっという間に岸に着きました。
 
コーチ:それはどんな感じでしたか?
 
Aさん:レゴブロックを積み上げて、凄い構造物を一人でつくりあげた感じです
 
コーチ:それはどこにありますか?
 
Aさん:日本のそこら中にあります
 
コーチ:「苦しさ」のテーマにもどります。それについて、他に何かありますか?
 
Aさん:(再びクロールで泳ぐジェスチャーをしばらく行い、はっと気づいた様子で)そう、誰も助けてくれないんです!
 
コーチ:次に何が起きますか?
 
Aさん:この状況が永遠に続くかもしれないんです。
 
コーチ:その次に、なにが起きますか?
 
Aさん:2つに一つです。おぼれて死ぬ。もしくは火事場のくそ力であっという間に岸に着く。どっちかです。
 
コーチ:そうなると何が起きますか?
 
Aさん:おぼれて死ぬは比喩ですけど、そうなればダメ営業マンであったことを一生コンプレックスとして持ち続けると思います。火事場のくそ力でなんとかなった場合は、次に私は他の人を助けると思います
 
コーチ:何が起きる必要がありますか?
 
Aさん:上記の2つの結末の中間です。永遠に距離が縮まらなくても、私は泳ぎ続けます。いつ完成するかわからないけど、苦しいけど、毎日レゴブロックを1個ずつ積み上げます。なんだか勇気が出ました。ありがとうございました!

プロセスワークの考え方で紐解く

比喩の活用はクライアントをドリームランドにいざなう

プロセスワークでは、現実を合意的現実、ドリームランド、エッセンスという3つの次元からとらえます。(クリーンランゲージの質問は確かにパワフルですが、クライアントが質問を受けてどんな意識の状態にあるのか?どこにいてどこへ向かおうとしているのか? 今ここでのクライアントの言語・非言語の反応から読み解くことが重要になるでしょう。プロセスワークの見立てがあることが、セッションをより効果的なものにすると我々は考えています。)

合意的現実、ドリームランド、エッセンスについての解説
http://www.balancedgrowth.co.jp/processwork/threedimensions.php

上記のケースでは「泳いでも泳いでも岸に着かない」「息が出来ない」「レゴブロックを1個ずつ積み上げる」などの比喩表現が頻出しました。これはクライアントがドリームランドの次元で自分を探究している状況であり、クリーンな質問による効果の一つです。合意的現実だけに留まると、「電話でのアポイントがとれないんです」「では電話での営業トークを練習しましょう」といった会話になり、間違いではないものの、深いレベルの気づきに到達しません。

1次プロセスの探究と2次プロセスの萌芽

これはクリーンな質問の特徴の一般論ではなく、上記事例に限った分析かもしれませんが、プロセスワークの枠組みが明確にあてはまる論点があるのでご紹介しましょう。Aさんの1次プロセス(慣れ親しんだ領域)は、「むっちゃ泳いだら岸に着く」、すなわち努力と成果のつながり、そして「レゴブロックを一人で積む」、すなわち個人で工夫や創造をすると表現できます。短いコーチングは彼に有用でしたが、それは彼が何となく感じていたものを顕在化するプロセスでした。つまり、その結論は1次プロセスの範囲内である「頑張って毎日レゴブロックを1個ずつ積み上げます」でした。

一方で彼が慣れ親しんでいない2次プロセスの萌芽が現れ出ようとしていたことも興味深いです。それは「誰も助けてくれないんです!」とAさんが発言した場面に現れています。その時の彼の表情、しぐさ、そこから伝わる雰囲気。すべてが、Aさんの変容の開始を暗示しています。「助ける」というキーワードに関しては、「火事場のくそ力で岸についたら他の人を助ける」という発言にも萌芽が観察できます。

Aさんの後日談を紹介すると、この1次プロセス・2次プロセスという概念がわかりやすいでしょう。2か月間受注ゼロだったAさんは、苦しくても地道な努力を続けるとことで初受注につなげ、それ以降も順調に新規顧客を開拓し、大成功とは言えなくても、一定レベルの成果をあげて本籍地である技術部門に4か月後に帰りました。ここまでは「一人でがんばる」1次プロセスの領域です。

その一年後、応援派遣ではなく片道切符で別の事業の営業担当者としてAさんは異動します。そこで彼は営業課長に全面的に指示を請い(助けてもらい)、その指示内容を全力で実行することで大きな成果をあげ、事業部MVPを獲得しました。また後輩の育成にも努力しました。「助けてもらう」「助けてあげる」という2次プロセスが現れ出たわけです。

クリーンな質問をエグゼクティブコーチングで活用する

上記の例では、コーチによるクリーンな質問が、Aさんの自己の状況を再認識し、未来に向かって立ち向かう勇気と決意を醸成するのに役立ちました。しかし、それはたまたまのコーチングの成功かもしれません。クリーンな質問の定義からして、コーチが話したいテーマへとクライアントを導くことはこの質問群ではできません。もしかしたらAさんは「おぼれて死にます」「私は人生の落後者です」といったモードに入り込み同じテーマで堂々巡りしたかもしれません。たとえそうであっても、クリーンな質問は長い目で見ると何等かの形でクライアントの役にたつのは確実でしょう。でもエグゼクティブコーチングのように、1回1回のコーチングで確実な成果を求められる状況においては、その使い方に留意する必要があります。

クリーンな質問だけにこだわらない

クリーンな質問は、クライアントをドリームランドにいざなう力をもっています。しかし、そのドリームランドを深堀することが、その回のコーチングの成果につながらないと判断したら、コーチングプランを変更し、クリーンな質問をやめることも必要でしょう。

ゴール設定と行動計画を合意的現実レベルで行う

Aさんの例のようにドリームランド探索が意味あるものとなった場合でも、エグゼクティブコーチングにおいては2つの要素を合意的現実レベルで付加する必要があります。1つ目はゴール設定です。そのコーチングセッションでたどり着きたいゴールの共有を行うとともに、クライアントが成し遂げたいゴールについても比喩表現にとどまらす、ビジネスの言葉で具体化します。

行動計画に関しても同様です。「レゴブロックを毎日1個積み上げる」とった比喩は素晴らしいのですが、それに留まるだけでは物足りないでしょう。比喩表現を経て自分の内面深くからの洞察を得たからこそ、そこから具体的に何をどのように行動するのかをクライアントと一緒に探究することがエグゼクティブコーチングにおいては必要となるでしょう。

認定プロセスワーカー:松村憲
組織開発コンサルタント:西田徹

プロセスワーク・コーチングを紐解くシリーズ バックナンバー

第1回:「変わる痛み」と「変わらない喜び」が変革の邪魔をする~ペイン・プレジャー・マトリクス×プロセスワーク~
第2回:10個の超シンプルな質問が深い自己探求への入り口になる ~クリーンランゲージ×プロセスワーク~
第3回:迫害者・犠牲者・救済者のロールから脱出する ~ドラマトライアングル×プロセスワーク~
第4回:禅の悟りプロセス「十牛図」とコーチング ~十牛図×プロセスワーク~
第5回:燃え盛る炎のエネルギーを変革に活用する ~バーニングプラットフォーム×プロセスワーク~
第6回:カウンセリングの巨人カール・ロジャーズの「自己一致」×プロセスワーク
第7回:変革期の組織学習:ダブルループ学習×プロセスワーク
第8回:名著「失敗の本質」に見る部分最適化した組織同士のコンフリクト ~「失敗の本質」×プロセスワーク~

この記事を書いた人

取締役

西田徹(Toru Nishida)

京都大学農学部農芸化学科(学士&修士)にて遺伝子組み替えを研究。(株)リクルート入社。組織活性化研究所にて組織文化サーベイの開発にたずさわる。ニューヨーク大学経営学修士を経て(株)ボストン・コンサルティング・グループ入社。経営戦略、組織戦略等のコンサルティングを担当。その後、(株)カレンを経て現職。マーケティング、経営戦略、ロジカルシンキング、ファシリテーション、コーチングなどを研修テーマとする。売上高約1兆円の米国系グローバル企業C社の上級リーダー研修を、アジア人初の認定トレーナーとして、ニューヨーク、韓国、台湾、上海などで実施(言語は英語)。
1998年にサンフランシスコにてコーチングに出会う。日本におけるCTIの1期生(2000年)。現在ではコーチングの基本を順守しながらも、経営戦略の視点、心理学(プロセスワーク)の活用を織り込んだ、「総合格闘技型エグゼクティブコーチング」を信条とする。

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