#組織開発 2014/09/21

組織開発とは〜企業事例(3)B社研究所のチームコーチング〜

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  • エグゼクティブ・コーチング
  • チームコーチング

今回は前回に引き続き「企業事例(3)」としてB社研究所のチームコーチング事例をご紹介して行きたい。

INDEX

◆状況

外資系某メーカーの日本法人の研究所。研究所が出来て20年あまり。R&Dのグローバル化の波に乗って作られたこの研究所であったが、この10年はR&Dよりは現場への技術サポートサービス提供が中心に日本人研究所長に慎重なマネジメントが実施されてきた。そうした中で所長が交代することになった。 人事部からの相談は、研究所トップのトランジションがスムーズに行くためにエグゼクティブコーチングをして欲しい。また新研究所長は研究者としては知識も経験も十分だしMBAも持っているが、実際に人/組織を動かしていくと言う側面については疎いので、コーチングだけでなく組織づくりについて色々サポートをして欲しいということだった。

今回のケースでは我々の見立ては省略し、エグゼクティブコーチング、ワークショップ、チームコーチングを組み合わせながら組織開発的なかかわりをしていった流れをご紹介したい。

◆全体の流れ

Phase1:エグゼクティブコーチング

よくあるエグゼクティブコーチングでは、シニアマネジメントにリーダーシップ上の問題行動があり、それを是正する形で行なわれることが多いと思われるが、今回は本人が研究所トップとして「どのような組織の在り方を望むのか」「自分はどのような所長になりたいのか」「その時に自研究所はステークホルダー(米国の研究本部やその他の国の研究所との関係、営業部門や製造部門との関係)とどのような関係でありたいのか」「ありがい姿に向かうために重要かつ未解決な課題は何か」等をコーチングを通じて浮かび上がらせていくことをテーマに5ヶ月間のコーチングを行なった。

Phase2:ワークショップ

次のフェイズではエグゼクティブコーチングで浮かび上がってきた「理想の組織像とそこに向かうための課題」を組織メンバー間で共有するために、研究所の正社員約30名を集めて1泊2日のビジョン共創とチームビルディングワークショップを行なった。幾つかの重要なアクションが決まったが、1つはボトムアップ(若手研究員主体)で具体的な課題解決アクションラーニングと勉強会をミックスしたものを実施していくこと、マネジメントチーム(所長以下5人)は彼らが育つ環境づくりをすること。

Phase3:チームコーチング

ワークショップで共有したビジョン実現に向けての動きサポートするために、マネジメントチームの関係性(お互いのかかわり合い)の質向上、及び各人のリーダーシップの開発を目的にチームコーチングを5ヶ月間にわたって実施した。 チームコーチングはコーチングの形態としては新しいものだが、最近はそのニーズが急速に高まっている。人は増大する内外環境の複雑さに対処する役割を1人のリーダーに期待するが、通常これらの課題はリーダー個人の対応能力をはるかに超えているため、リーダーチームとして対応力を向上させる必要が高まってきているのがその理由だ。

また、研究者に限らず、日本の管理職は個人の発達とチームの発達を混同している場合が多い。グループコーチングとチームのコーチングの違いや重なる部分についても理解されていないことも多い。一般的にグループコーチングは6名程度のグループを組んで、その中の1人が課題提示者となり、その他のメンバーはその課題提示者の課題解決に向けたコーチングリソースとなるが、あくまでも個人のコーチングを集団で行なっている(グループコーチングの代表的な例は「質問会議」と言われるジョージワシントン大のマーコード教授が開発したアクションラーニングモデルが有名)。一方、チームコーチング(システムコーチングと言ったり、関係性コーチングと言ったりもする)は対象が個人ではなくチームそのものである。チームの発達段階モデル※やベルビンのチーム役割モデル※を使いながらチームとしての発達を促していく。 チームの関係性の状態を見ながら、グループコーチングで数ヶ月実施する場合もあれば、最初からチームコーチングを実施することもある。今回のケースではミックスして用いた。

※発達段階モデル:

タックマンの形成期-混乱期-統合期-機能期が有名だが、他にもある。例えば古川久敬著「チームマネジメント」(日経文庫)では次のモデルが示されている

レベル1円滑な連携:ホウレンソウ、情報共有、円滑な人間関係
レベル2役割を越えた活動:チーム全体を考慮して役割の柔軟な変更、役割外行動
レベル3創発的コラボレーション:知的相互刺激、情報練り上げ、創造的な知識の触発や具体化

※役割モデル:

役割には組織図や職務記述書に書かれるような外的役割とチームの関係性の中で自然と担われる内的役割(例えばお「父さん役」「お母さん役」や、「発起人」「嫌われ者」「邪魔するもの」「仲裁者」など)がある。

内的役割は無数のものがあり得るが、例えばベルビンの下記モデルが有名。チームにとって必要にも関わらず十分に満たされていない役割は何か、ある役割を誰かが抱え込み過ぎていて、他の人がその役割を担うことを阻害していたり、疲弊して嫌悪感を抱いている人はいないか。役割=個人ではないので、チームとして必要な役割をどのように担うかを話し合うことが重要である。

1.プラント(PLANT (PL)):創造力があり困難な問題を解決できる人
2.資源探索者(RESOURCE INVESTIGATOR (RI)):外交的で熱中しやすく、好機を探る人
3.コーディネーター(CO-ORDINATOR (CD)):優れた議事進行者で、明確な目標を示し意思決定を促すことができる人
4.形づくる人(SHAPER (SH)):挑戦的で、精力的に障害に立ち向かっていける人
5.チームワーカー(TEAMWORKER (TW):協調性があり、もめごとを避けるタイプだが、人の話をよく聞き築き上げる人
6.実行者(IMPLEMENTER (IM):有能で頼りがいがあり、アイデアを実行に移せる人
7.補完的完成者(COMPLETER FINISHER (CF):勤勉で誠実な仕事を納期通りに行う人。また自分や他者の誤りや手抜きに厳密な人
8.スペシャリスト(SPECIALIST (SP)):特定分野の知識やノウハウをもつエキスパート
9.モニター(MONITOR Evaluator):優れた戦略的判断力持つ人

◆結果

自分たちがこれまではチームとしては機能していなかったことの理解。組織の戦略についての合意と、それを組織全体で共有して、前に進むために若手と様々な対話が起きてきたこと。またマネジメントチーム相互でサポートし合う行動が増えてきたこと。

この記事を書いた人

代表取締役

松田栄一(Eiichi Matsuda)

東京大学経済学部卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社。NTTグループのシンクタンクである情報通信総合研究所に出向し、主に日米電気通信事業者の資本政策や管理会計に関する調査研究・コンサルティングに携わる。その後、NTTにおいて海外進出時のブランド戦略、NTTコミュニケーションズ設立時の広告戦略を手がけた後、MBA教教育を手がけるグロービスにて企業内研修部門マーケティング統括リーダーを努める他、戦略、マーケティング等の講師を務める。現在はバランスト・グロース代表として組織開発コンサルティング、エグゼクティブコーチングを行う。

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