組織が健全な成果を上げ、メンバーが仕事を通じて大きな喜びを得られる。バランスト・グロースは、そのような組織づくりのお手伝いをします。

Library

組織開発コラム ↑一覧ページへ

2016年05月17日 新井 宏征 [バランスト・グロース コンサルタント]

適応を要する課題への対応―第3章:改めて考える「イノベーション」

2年前に免疫マップを紹介するコラムを公開させていただきました。おかげさまでたくさんの方々に読んでいただきうれしく思います。当時は、まだコンセプトが発信されたばかりでしたが その後多くのクライアント企業との協奏によって、実際の経験とコンセプトがブレンドされ、本当の意味での知力が育ちつつある気がしています。

今回のシリーズでは新井宏征小島美佳が、それぞれの視点で「適応を要する課題」とどのように向き合い、理解し、最終的に組織の中でイノベーションを起こすことができるのか... という問いに答える内容を発信していく予定です。


●改めてイノベーションについて

このコラムでは小島と共に「適応を要する課題」との向き合い方を入口として、最終的に組織の中でイノベーションをどうやって起こしていくのかについて考えています。

コラムの方向性として、今の段階では、まだ「適応を要する課題」との向き合い方に関する話しが主となっていますが、そういうことを考えながら、そうやって向き合うことのゴールである「イノベーション」という言葉について、(コラム上では)まだ丁寧に考えていなかったということに気がつきました。

「イノベーション」という言葉は、おそらく今の時代の経営者はマネジメント層の方であれば、一度は使ったことがある言葉だと思いますが、使っている人によって定義はバラバラです。下手をすると、あまり定義を意識しないまま「イノベーション」と言っている人もいるでしょう。

今回のコラムを書くにあたって、改めて手元にあるイノベーション関連の本の定義の部分に目を通しました。せいぜい7、8冊くらいの本ですが、やはりそこに書かれている定義はバラバラです。そのバラバラの状態は、表現上の違いのものもあれば、「見ている世界が違う」と思えるような違いもありました。

その中で、今回は丹羽清氏の『イノベーション実践論』の定義を元として、イノベーションの定義を確認しつつ、要するにイノベーションとは何をするのかを考えていきたいと思います。


●イノベーションの基本的な定義

『イノベーション実践論』の冒頭では、イノベーションの定義を次のように簡潔にまとめています。

イノベーションとは従来の慣行軌道を離れ新しい軌道に変わること、すなわち、新しい世界の創造である

その上で、シュンペーターの定義である「イノベーションは生産の場の新結合で起きる」ことを紹介し、次の5つの場合を紹介しています。

1. 新製品の開発
2. 新生産方法の開発
3. 新市場の開拓
4. 新資源供給源の開拓
5. 新組織の開発

●シュンペーターの定義の盲点とイノベーター

これを受けて丹羽氏は、この定義には2つの盲点があると指摘しています。1つは新しい要素自身の開発ということもあり得ることを見過ごしている点。もう1つは「マネジメント領域におけるイノベーション」が言及されていない点だとしています。

この2点目の盲点は特に大切です。具体的にどういうことかというと、次のように解説されています。

5つの場合(※シュンペーターが挙げた5つのこと)とは企業の役割分割された諸活動であるので、それらを統合したシステムレベル(例えば企業のCEOレベル)の活動に対するイノベーションもあり得る。とくに、全社的、あるいは戦略的なイノベーションが強く求められる今日では、このマネジメントレベルでの新軌道構築に向けての挑戦は重要である。

さらに、この本ではイノベーションを起こす存在である「イノベーター」になるための行動様式として次の4つを挙げています(4つの詳しい内容については、改めて『イノベーション実践論』をお読みください)。

・他業界を攻める
・自業界を攻める
・自企業を攻める
・新たなものを作る

●「イノベーション」として理解しておくべきこと

さて、ここまでの内容を整理してみましょう。

私たちが「イノベーション」という言葉を使う際、もしかすると、近視眼的に部分だけを見て考えているかもしれません。しかし、ここまで紹介したように、シュンペーターが指摘した5つに加えて、新しい要素を作り出すという6つの視点を考えなくてはいけませんし、さらにそれらを統合するようなシステムレベル、マネジメントレベルでの活動も必要になります。

そして、イノベーションを起こすイノベーターとしては、新たなものを作るという一般に理解されているものだけではなく、自業界や他業界を攻め、自企業をも攻めるという選択肢も持っていなければならないことがわかります。


●「面倒」なことが好きという「職業病」(やや余談気味に)

もちろん、「イノベーション」の定義について、これ以上に細かく考えていくことは可能でしょう。ただし、実際に企業でイノベーションを起こすということを踏まえれば、定義の厳密さを求めるよりも、組織の活動という観点からイノベーションをとらえることの方が大切です。

そういう観点から私が自社で行っているシナリオプランニングセミナーの応用編で使っている下記の図をきっかけとして話しを進めていきたいと思います。

160514_scenario-and-innovation.png この図を私自身が考えた際の問題意識は、「そもそも、なんでシナリオプランニングなんかをやらなければいけないのか?」というものです。シナリオプランニングにしても、このコラムの大きなテーマである「適用を要する課題」についても、日常的な企業の活動と比較すると、取り組むのが「面倒」なものです。

コンサルタントや組織内のチェンジエージェントとして、日々課題に向き合っていると、時にはこういう「面倒」なことこそが「面白い」という感覚に陥ってしまうことがあります。そうなると、そういう「面倒」さに向き合うことが目的となってしまい、「面倒」さに向き合うこと効力感を感じてしまうという「職業病」に陥ってしまいます。

ただ、それは組織内の最終クライアントにとっては何の意味もないことであることは明らかです。簡潔なやり方で済めば簡潔に物事を進めればいいし、面倒なことをやるのであれば、そこにきちんと意義を見いだし、それをクライアントに伝えるなり、何らかの形で、その「面倒」さにオブラートをかけながらクライアントの真の目的を達成できるように進めることの方が大切だと自戒を込めて、日々考えています。


●組織の活動としてのイノベーション

話が逸れてしまいましたが、図に話しを戻すと、イノベーション活動として意識しなくてはいけないのは、次の3ステップだと考えました。

1. 今の事業システムを知る
2. 事業環境の変化を描く
3. どのような価値を、どのように届けるのかを考える

ひとつずつ見ていきましょう。

1点目の「今の事業システムを知る」は、現状の組織のシステムやビジネスモデルなど、今まで組織を存続させてきた仕組み(これを「事業システム」という表現で呼んでいます)を把握することです。これは、前回の私のコラムや今回の小島のコラムで伝えているAs-Isを知ることです。

2点目の「事業環境の変化を描く」は、自分たちのことは一度脇に置いておいて、自分たちを取り巻く環境の変化の兆しを読み取る行為です。私としてはここにシナリオプランニングを位置づけていますが、同じ目的が達成されるのであればツールは問いません。ただし、イノベーションを起こすために、この部分は欠かせません。

なぜなら、1点目で見た今の事業システムというのは、今の時点では合理的なものかもしれませんが、時間をかけてその合理性は失われていきます。例えば、ビジネスモデルであれば、競合が真似をしてくるかもしれません。システム的に見た場合、マイナスのループがあれば、時間の経過と共にマイナス面がどんどん強くなっていくからです。

そういう点で、今の事業システムを変えていかなければいけないのですが、なぜ変えなくてはいけないのか、変えるとすればどういう方向性があるのかを考えるために必要なのが、自社を取り巻く「事業環境の変化」です。

そういう情報を元に顧客に対して「どのような価値を、どのように届けるのかを考える」ことがここで言う最後のステップです。

この前までに紹介したイノベーションやイノベーターの定義を踏まえると、このようにして、自社の現状をシステム的に把握し、環境変化の兆しを踏まえた上で、今後、顧客に対して「どのような価値を、どのように届けるのかを考える」という最後のステップだけを、狭義のイノベーション活動ととらえることができます。

ただし、そのような活動を行うためには、1点目と2点目の活動を含む広義のイノベーション活動を行っていくことが欠かせないのではないかと考えています。




●「免疫マップ」や「適応を要する課題に関するコラム」のバックナンバー

適応を要する課題への対応をどうすべきか? 序章:寄稿の意図 (小島美佳)

適応を要する課題への対応をどうすべきか? 序章:「変わる」ことに対する誤解 ? (新井宏征)

適応を要する課題への対応 ― 第2章:メンタルモデルと向き合う (小島美佳)

適応を要する課題への対応 ― 第3章:メンタルモデルを脱ぐ (小島美佳)

適応を要する課題への対応―第2章:As-Isからシステムを掘る (新井宏征)

組織における免疫マップの活用 第1回:私たちが直面している問題の本質と「免疫マップ」

組織における免疫マップの活用 第2回:ツールとしての「免疫マップ」とその使い方

組織における免疫マップの活用 第3回:「免疫マップ」の活用法と注意点

組織における免疫マップの活用 第4回:なぜ免疫マップを使えないのか?

組織における免疫マップの活用 第5回:ステークホルダーマネジメントを活用する

お気軽にお問い合わせください。

info@balancedgrowth.co.jp

上へ戻る

バランスト・グロース | 東京都中央区銀座1-20-17 押谷ビル9F