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2015年12月14日 佐野浩子[一般社団法人 日本プロセスワークセンター 代表理事/CEO

組織の深層心理:ビジネスに役立つプロセスワーク、6つの視点
第1回:プロセスワークから考える組織の成長

このコラムでは、ビジネスに関わる人たち(ある意味では世界中の人はすべてビジネスに関わっていますが)に、なんらかの形で役立つプロセスワークの視点を6回にわたって提供していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

<目次(予定)>
1.プロセスワークから考える組織の成長
2.個人の成熟と組織
3.組織としてのレジリエンス
4.マネジメントの生き残り戦略
5.イノベーションが"やってくる"ために
6.足元を照らす光


第1回:プロセスワークから考える組織の成長

さて、第一回目の今回は企業の成長とそれを阻む「エッジ」について、「下町ロケット」(池井戸潤、小学館)を例にとりつつ、プロセスワーク的な視点から読み解きたいと思います。

プロセスワークとは?

プロセスワークは現在、イスラエルーパレスチナや、アイルランド紛争、アメリカ国内での民族差別問題など、世界各地の問題に関わり、国の政治レベルや国連などの世界的組織、多国籍企業などのファシリテーションにもその考え方が用いられています。プロセスワークは1970年代にスイスのチューリッヒで生まれました。もともとMITで物理学を学んでいたアーノルド・ミンデルが交換留学でアメリカからチューリッヒに渡り、ふとしたご縁でユング派の心理分析家になります。ユング派は「深層心理学」と呼ばれ、人間の無意識の深いレベルに「集合的無意識」と呼ばれる人類に共通する普遍的なパターンを想定している心理学です。当初は個人心理療法のみを行っていたミンデルは、だんだんと深層心理学をグループに用いるようになります。私たちの深い深層は普遍的なパターンがあるのではないかと見なし、それをワークと呼ばれる手法を使ってファシリテーションしていくのです。

「プロセスワークのパラダイムは、世界に対して今起こりつつある出来事の可能性を見抜き、何かが展開しようとしている種子として世界をとらえ、試しに?イエス"といってみるのです」
(「うしろ向きに馬に乗る」アーノルドミンデル、1998、春秋社)

 「プロセス」とは、川の流れのようなもの、「ものごとの変化の流れ」を意味しています。川の流れは、穏やかな時も、ゴツゴツとした岩場がつづく時もあるでしょう。川を下る際に岩場が現れ、あなたの乗ったボートが転覆しそうになったと想像してみましょう。とても怖い思いをしたりするかもしれませんが、プロセスワークは、人生の岩場に出会ったことに対して心を開くように勧めていますーその意味では、テクニックやスキルを超えて「人や組織・自然に対する姿勢」といえます。

 私たちの人生のプロセス(川の流れ)に現れてくる岩場は、なんらかの意味があって生じていて、私たちに「変化」を求めているとみなします。プロセスワークでは、穏やかな川の流れにあるいわば従来通りのアイデンティティを「1次プロセス」と呼び、岩場が求める変化した姿あるいは新しいアイデンティティを「2次プロセス」と呼びます。この1次プロセスと2次プロセスの境界線--あなたのアイデンティティを保ち、「そうではないもの」と区別し、また変化していくことへ抵抗を、「エッジ」と呼びます(ロバート・キーガンの『なぜ人と組織は変われないのかーハーバード流自己変革の理論と実践』を読んだ方には"免疫システム"と言うとわかりやすいかもしれません)。エッジを乗り越えて、2次プロセスを生きることを進めることもありますが、それだけがプロセスワークではありません。何かが生じた時、自分個人や組織の成長を俯瞰する「地図」を持つこと...言い換えれば「アウェアネス(気づき)を持つ」こと、「メタ(高次の)の視点を持つ」ことを提案します。そうすることで、私たちは問題や葛藤と言われるものから距離を置き、すべてのことを「自分の成長への糧」として見ることが可能になるからです。


企業の成長とは?

組織経営のプロである若林計志(http://flowone-lab.com/blog-entry-64.html、2015)はウェブサイトの中で、経営学者のグレイナー博士による組織の成長の5段階について述べています。要約すると、組織は生体のようなものであり、ある次元から次の次元に行く際には必ず「革命」の危機が起きる、その危機を乗り越えられないと、企業は成長できず、足踏みをし続ける。例えば個人商店から「会社」になる時には、個人ワンマンの経営スタイルを変える必要があり、それをしないと組織が分裂したりするのだ、と。ある意味で人間の成長と同じですね。児童期から青年期になる時は、同じ服装、同じ振る舞いではいられません。新しいアイデンティティが必要になります。成長は体の中に革命を起こし、時には「成長痛」を起こします。こんな風に、組織も新しい次元=新しいアイデンティティを獲得しながら成長していくといえます。
 プロセスワークでは、グレイナー博士のように直線的な成長だけを想定しているのではありません。その組織ごとに独自のプロセスがあるのだとみなします。「革命」、つまり会社の内外で起きる様々な出来事(プロセスワークではシグナルと呼びます)が起きた時、それは何か意味があって起きている、企業に変化を求めていると考えます。次の次元(2次プロセス、新しいアイデンティティ)に行くために、これらのシグナルを捉え、何が起きているかについて地図を持ち、自覚的になることをサポートするのです。そうすることで、企業が自分たちの変化=成長に対して自覚的に選択することができます。プロセスワークからみた企業組織の成長は、直線的・ゴール達成的なものだけではありません。組織とはそう単純なものではなく、「複雑系」だからです。プロセスワークの特徴は、どんな組織であろうともそのプロセスをとらえて地図を描き、深層にある成長への可能性を引き出すところにあります。マニュアルや型通りのテクニックを超えて、次元を上げていく組織開発を可能にするのです。


成長を阻むものー「下町ロケット」に見るエッジ

 「下町ロケット」の例から、「エッジ」について、具体的に考えてみましょう。  佃製作所は精密機器メーカーですが、突然の顧客からの取引終了宣言を受け、他社から特許侵害で訴えられたところから物語は始まります。これは通常の考え方でいけば「倒産の危機」ですね。ですが大きな文脈から見ると、この出来事は佃製作所が大きく成長していく最初のきっかけとなります。それまでの佃製作所は、「中小企業」で「開発費に多額のお金を投じるけど、開発されたものが商品化される当て」を持たない企業でした(ドラマにも本にもそうは書かれていませんが、もし私が佃工業の総務部社員でしたら、この時代は社長と商品開発部の専行に内心むっとしていたのではないかと思います...)。取引終了と訴訟で経営が危うくなった佃製作所に、帝国重工という一部上場企業から、「我が社のロケットを完成させるために、佃製作所の特許を売って欲しい」という申し出があります。特許を売るのか、あるいは特許使用契約にするのかー佃社長は、特許を売ってしまっていいのか、悩みます。その中で「部品を供給する」とう第三の道を提案します。すると若手社員から「俺たちは中小企業だ、もっと安定の道を選んでくれ」「社長は自分のことしか考えていない」と猛反発を受けます。

ここで簡単にプロセス地図を見てみましょう。
PW1.png まず、私たちは「中小企業」だ、という組織のアイデンティティ(一次プロセス)があります。それに対して「ロケットの部品を作る会社になる」という佃社長のヴィジョン、これがまだ組織が生きていない側面=組織の2次プロセスになります。エッジは1次プロセスをそのままに保とうとし、変化を止めようとする価値観や信念です。ここでは「中小企業だから、また危機がきたら潰れてしまう、安定を目指すべきだ」という若手社員の声として現れています。
 エッジは、何かよくないもの、悪いもの、乗り越えるべきものとして捉えられがちですが、そうではありません。私たち自身の決断を「磨く」という意味で、大切な声なのです。例えば誰かが転職をしようという時に、「転職先のことよく調べないと」「本当に大丈夫なの?」といった自分の内側から/周囲の人の声は、エッジとも言えますが、転職を成功させるために必要な戦略を磨く側面もあるのです。また、アイデンティティを保つというエッジの働きは、老舗や伝統的なブランドにとってなくてはならないものです。なぜなら個人も組織も、必ず「変化」を求める動きーシグナルは生じてきます。その時に老舗や伝統にとっては、変化を求めるシグナルを自覚的に扱いながら、エッジを常に保ち続ける「地図」が求められます。

 また、エッジは変化を阻むものですが、エッジとぶつかることでより成長しようとする力が高まることがあります。「そんなことは無理だからあきらめなさい」という世間からの声があったからこそ、「なにくそ」と頑張るというのは様々な小説やドラマになっていますね。世界中にある火渡りやバンジージャンプなどの通過儀礼は、「そんなのやることは無理だ」というエッジの声を押し切って挑むからこそ、達成した時には大きな喜びを得ることができます。エッジというのは、私たちの中に眠る「成長しよう」という力を刺激することもあるのです。
 佃製作所では、俺たちはどうせ中小企業だ」という若手社員たちのエッジに対し、帝国重工の「テスト」を受け入れ、若手社員にプロジェクトチームを任せます。当初は不満を言っていた社員たちですが、「どうせあなたたちのレベルはこんなものなのだろう」という帝国重工に怒りを覚え、強く反発します(ここでエッジの声は、若手社員からではなく、帝国重工側にスライドして発せられています)。書類をきっちりとそろえ、粗探しをしてくる相手に対して「勘違いしていないか?あなたがこちらを評価するように、こちらもあなた方を評価している」と言い切ります。帝国重工との火花を通して、若手社員たちに「佃プライド」が芽生え、花開いていきます。エッジの声としっかりやりあったからこそ、佃製作所は新しいアイデンティティ(2次プロセス)である、「自分たちの製品に対する誇り」「自分たちの会社についてのプライド」「ロケット品質」が社員の心に宿るのです。そして「負け組の中小企業」というアイデンティティから、「大企業に負けない品質を生み出す中小企業」へと組織が自己一致していくのです。

 「下町ロケット」を題材に読み解くプロセスワーク、いかがだったでしょうか?次回も引き続き下町ロケットを用いながら、個人と組織の成長の相互作用について、お伝えしていきたいと思います!


※バックナンバー「組織の深層心理:ビジネスに役立つプロセスワーク、6つの視点」

第1回:プロセスワークから考える組織の成長
第2回:個人の成長と組織の変容
第3回:深層を流れる物語〜「ロール理論」からみる組織の成長
第4回:管理職としての自分を知る〜パワーの取り扱い説明書
第5回:深層を流れる物語〜セブンイレブンジャパン社長交代とプロセスワーク流リーダー

※プロセスワークと組織開発の関連コラム

組織開発の基本 第2章プロセスワーク理論 第1節


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