実録シリーズ③ 組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~第3回:改革の実行と成果

組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える ~業界最大手消費財メーカー・研究所での組織改革~
「組織改革案実行」編
第3回:改革の実行と成果

私どもバランスト・グロース・コンサルティングは、大手消費財メーカーB社・研究所の組織改革をお手伝いする機会を頂いた。本コラムはその事例を組織改革案立案(第1回、第2回)・組織改革実行(第3回)に分けてお伝えさせて頂く。(執筆担当:第1回・第2回=石井由香梨、第3回=山碕学 / 編集=西田徹)
尚、本事例共有は、組織、人材がこのプロジェクトを通じてどのように変容を遂げていったか?についてフォーカスすることを目的としている。また、機密保持の関係上、匿名性を担保しながら、可能な限り実態と実際が伝わる内容となるよう工夫していることをご容赦ください。

第3回:組織改革実行編

第1回第2回と組織改革案立案までのプロジェクトを紹介してきた。
本第3回においては、組織改革実行の経緯と現時点での成果をご紹介する。

9) 全研究員への改革案の発表

プロジェクト・チームによって改革案が完成した1か月後、プロジェクトメンバー(以下、プロジェクト=PJと表記)が研究所長にプレゼン、ディスカッションする場を持った。
プレゼンを受けた所長からは、
「私の想定を超える改革案です」
「私としては、提案してもらった全ての案を進めたい気持ちです」
という賞賛と承認、そして感謝とねぎらいの言葉が17名に語られた。

「しかし、これを実行していくのは研究所員全員です。今日のプレゼン内容をそのまま、300名の全研究員にプレゼンして、皆と議論してほしい」
という次のアクションへの依頼もあった。

PJメンバーは、3つの組織改革案のうちの一つである「会議体改革」をそのまま、今回の発表と議論に活用する方法を選んだ。

【組織改革3つの案】
<1>会議体改革
<2>組織/仕組み改革
<3>評価改革
※具体的な改革案の内容は第2回を参照ください。

「会議体改革」をそのまま今回の発表と議論に活用する方法とは、会議の目的に合わせて会議形式を変え、新しく2つの会議体をつくるというものであり、
その一つは「情報共有」を目的とした『全研究員情報共有会』であり、もう一つが「相互理解」と「議論」を目的とした『パネル・ディスカッション』である。

■組織改革案の提案・1回目:『全研究員情報共有会』でPJメンバーから全研究員への新取り組み提案プレゼン
■組織改革案の提案・2回目:『パネル・ディスカッション』でのPJメンバーと全研究員との対話・議論を促進(6つのブース設置)

※2回の提案を終えての所長談
「この2回のやり方を見て皆が気づいた。
1回目のやり方は従来のやり方で、一方方向。勇気ある人だけが意見を言う。これまで活性化しなかったパターン。
2回目のやり方は未経験だったが、対話が活性化して発表者も様々な意見・アドバイスが聴ける。
これまで起こらなかった密なコミュニケーションに皆が気づいたと思う」

我々の経験でも、活発な議論が起こる会議の参加人数は8人~Max.10人です。情報の通達であれば、300名でも可能ですが。
今までは、全研究所員での会議の目的とメンバー数が意図的にコントロールされていませんでした。「目的に合わせて、人数を調整する」というファシリテーション理論の王道が功を奏した結果です。
PJメンバーはPJを通して、自ら目的と方法をリンクする必要性に気づき、自ら実行に移せたことが大きな成果でした。

 

10) 改革案導入の意思決定時に起こった抵抗

全研究員への提案と議論を通して手ごたえを感じた所長は、次に改革施策導入の意思決定を図るためにマネージャ会議で最終提案するようPJメンバーに依頼した。
しかしここでPJメンバーからの抵抗が起こった。それは「最終意思決定の場であるマネージャ会議での提案は嫌だ。所長から行ってほしい」という抵抗であり、それは「自分への評価につながる」「意思決定を主導する責任は取りたくない」という恐れだった。
それでも、何人かのPJメンバーから「やります」という勇気ある意思が表明され、マネージャ会議で提案することが決まった。

これは、『恐れ』が現れた時に以前の(PJ開始時の)心理状態に戻るという現象です。エッジ(変化のための心理的障壁)を越えそうになるが、越え切らずに元に戻るという心理学でいう「サイクリング」が発生しました。
ただ、サイクリングした人もいれば、サイクリングせずに勇気をもってエッジを乗り越えようとする人も現れました。
サイクリングした人を見て、それではいけないという反面教師を見たからです。PJを通して、これまで一緒に乗り越えてきた集団体験による効果も表れました。『恐れ』というエッジを一人で乗り越えていくには大きなエネルギーが必要ですが、集団でエネルギーと勇気を増幅させることは非常に有効です。 

導入の最終意思決定の場であるマネージャ会議でグループ長(所長直下のマネージャ)達からの抵抗があった。
グループ長の考えは「本来、我々も参加すべき取り組みだった。PJ期間中に経緯も知らされずに導入の意思決定がなされるのには違和感がある」いうものであった。
  ※PJメンバーはグループ長未満のマネージャと中堅社員で構成されていた。
最終的には、「これは私がオーナーのPJです。全研究所員の反応も考慮した上で、導入を決めます」という所長によるトップ判定の元、導入が決定された。
マネージャ会議後、所長がグループ長に個別のファローと対話を行ったことは付記しておく。

この経験を通して、所長の気づきは下記のようなものであった。
「現場感覚のあるグループ長未満の研究員から立ち上がる提案こそが、この研究所の改革につながるという意図を持っていたが、重要なポジションを担ってくれているグループ長をもっと早いタイミングで巻き込む必要があった」

所長の反省の弁を受けて、我々コンサルタントとしては、「グループ長の巻き込みを提案し、我々第三者だからこそできるグループ長との対話」をPJ中に実施すべきであった、という反省も生まれました。
影響力の高いキーパーソンの巻き込みは、外部コンサルの上手い・賢い使い方です。今回のケースにおいても所長やPJメンバーと違うポジションだからこそ、コンサルタントができることも多いのです。
ただ、あえてグループ長を巻き込まなかったことによるメリットを探すと、「PJメンバーが評価者であるグループ長に依存せず、自律性を持つ・高める」という結果が生まれました。我々がグループ長の巻き込みをサポートしていた場合、PJメンバーの自律性にどのような影響があったのか?たられば論ではありますが、メリットがあったことも付記しておきます。

研究所長はトップとして正しく、適切なタイミングで意思決定されています。
組織改革の主役を誰にするのか? 主役となるコアチームをいかにして創り出すのか?
これらは変革の重要要素ですが、トップが正しいランク・正しい力の使い方をして、自ら意思決定を下すということも非常に重要な要素です。
変革が進まない組織において、トップが抵抗勢力を押し返せずに意思決定できないケースを我々は何度か見てきました。

 

11) 新施策の導入

所長の意思決定から新政策が導入されて5ヶ月後の状況は下記の通り。

①会議体改革
・全研究員定例会は、所長、グループ長からの情報共有・伝達を除き、議論を目的とした『パネル・ディスカッション』方式に移行。発表者からは様々な意見・アドバイスがもらえると好評。研究員同士の研究テーマを軸にしたコミュニケーションも活性化。

②組織/仕組み改革
・毎月第3金曜日の午後の公式会議を原則禁止し、自由な時間の活用に移行。
自由発想の研究プロジェクトやサークル活動を募集。
新しい研究プロジェクトが立ち上がり、研究テーマやグループを越えた、技術横断の取り組みが進み始めた。
所長やPJメンバーが見えていなかった、改革背策導入前から行われていた有志によるサークル活動も顕在化し、また、新たなサークル数も増え始めた。
・「まじめな雑談」と称し、全研究所員定例会の開始時の座席を工夫。必ず違うグループのメンバーと隣になるようにし、定例会の中に雑談会議時間を設定。初めて会話する人と休憩時間も話を続けている現象も多く見られた。

③評価改革
・毎月の表彰を新たに設置。公式のKPIとは違う視点で、サプライズの意味も込め、所長主観で選んだ。
選定するために情報収集したことで、所員が仕事以外で様々な活動に参加していることも顕在化。全研究所員と共有することで仲間の活躍を知る機会につながり、組織への誇りが醸成されてきた。
例えば、自治体と共同開催の高齢者サポート・イベントで、スタイリング教える、メイクを教える、歯科検診や体重測定協力など、商品開発で培ったノウハウを提供していた。
・評価への不満や疑問を低減する方法として「3者評価面談」を導入。評価を受ける側の希望で、上司および上司の上司との3者面談ができる仕組みをスタートした。

12) 施策導入の成果

上記状況を所長と振り返り、その成果を整理した。(以下、所長の言葉を可能な限りそのまま記載)

●研究所員同士の距離感とコミュニケーション

所長と300名の所員との距離が近づいた。
研究所全体にコミュニケーションが縦・横・斜めに増えた。
完全に混ざり合った。(縦割り意識がなくなってきた)

●所長と研究所員の距離感

所長がこれまで以上に自信をもって現場(研究所全体・所員一人ひとり)に向き合えるようになった。話せば話すほど、より壁がなくなる。以前は現場から所長へは情報が上がってこなかった。

●変革への機運の醸成

「この研究者は変わるんだ!」というインパクトが研究所に起こった。
例えば「研究所の雰囲気をこのPJが変えた」という声が若手、グループリーダーを中心に直接・間接的に聴こえてきた。 
みんなが研究所全体のことを自分事として捉えるようになった。

●研究所員のモチベーションの変化

研究所員のモチベーションが明らかに上がった。モチベーション高く仕事に取り組む人の絶対数が増えた。
例えば、報告書への所長からのコメントに対し、レスポンス速くコメントを返してくる人が増えた。 
所長との会話の中で「大事なことを教えていただいた」「カッコいいことを言っていたが、自分の言葉で言えていなかったことに気づいた」「組織のリーダーが方向性を出しメンバーが動かす、という大事さを身に染みて感じた」という声があがった。

●PJメンバーの成長

17名のPJメンバーが大きく成長した。どこか受け身もあった姿勢が完全に主体者になった。主体者の姿勢がどれだけ大事か、ということに気づいた。
メンバーの中には、会社の将来を提案するPJのメンバーに選ばれた。
また、当初、グループ長への遠慮や気遣いのあったメンバーが、グループ長への気遣いを持ちつつ、この取り組みを主導する、統合の姿勢が現れた。

13) 研究所長の学び(所長談)

「この取り組みを通して学んだことは、所長が気張ってやるのではなく、グループ長などのリーダーを立てながら運営すると上手くまわる、ということ。
ある時は所長が全部決める、先頭・矢面に立つこともあって当然だが、その必要がない時はマネージャやリーダーシップを発揮するメンバーに自由に動いてもらう。その重要性をこのPJから学んだ。
組織のトップに立つとどうしても自分自身の過去の経験を押し付けてしまうが、それは不満につながる。
例えば、社長が出る会議で、専門的な意見を社長にアドバイスするという目的の時、出席対象となっていないグループ長を気持ちよく参加させることができた。結果として社長もグループ長もハッピーな状態になる。ヒエラルキーが固定していると、こんなことはできない。
人は役割を与えると育つ。それも実地で学んだ」

 

以上が、【組織サーベイを起点にミドルの提言で組織を変える】の「組織改革実行」編となる。

 

最後に、このプロジェクトを通じて私自身が学んだことは下記の3点です。
◆ミドルの自律性を高めることが組織を強くする肝であること。
◆トップの正しいランクと力の使い方が変革を実現すること。
◆変わる・責任を引き受けるリーダーやリーダー群を生むために、意図的に個人と集団の心理に関わる重要性。

このPJでイノベーター(17名)を創り出し組織全体(300名)を巻き込んでいく、丁寧で周到なプロセスを体験する貴重な機会をいただきました。
このような素晴らしいプロジェクトの関わらせて頂いた幸運に感謝を申し上げます。

山碕 学