プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

組織開発の基本 第2章プロセスワーク理論 第3節2015年3月14日

2015年03月14日 松田 栄一[バランスト・グロース 代表パートナー

今回はプロセスワークで用いる「ロール」の概念と例について、ロールとは何か、どう現状を見立てていくのかを紹介したい。

プロセスワークにおいて1次プロセス(現状)と2次プロセス(変化の起こった状態)を見るために、ロールという概念を理解することは重要である。 プロセスワークで言う「ロール」とは、日本語で言う「力関係」と「役割」についての複合的な概念である。プロセスワークで「ロール」という言葉を用いる時、この2つの概念のいずれかについて言及しているが、力関係と役割どちらに言及しているかは文脈で判断していく必要がある。プロセスワークでは、現状どのようなロールが存在するか、機能が十分でないロールはあるか、今後どのようなロールを補えばいいか、といったふうに分析を行うことができる。
 
前提としてお伝えしておきたいのが、プロセスワークの「役割は機能に属するものであり、人に属するものではない」「一個人は役割よりも大きい、役割は個人よりも大きい」という考え方である。特に2つ目は一見矛盾したことを言っているように聞こえるが、例えば、既婚で子どものいる男性会社員は、「会社員、夫、父」さらに何の肩書きもない「私」という複数の役割を持っている、という意味で一個人は役割よりも大きい存在である。また、職場でクライアントに対してサービスを提供するのは誰か1人の役割ではなく、複数の人間が共同でサービス提供にあたっているという意味では役割は個人より大きいものである。

<力関係の「ロール」> まず1つ目の、力関係を表すロールについて説明させていただく。プロセスワークでは、職場には「主流派」と「非主流派」という2つのロールが存在するとされる。

 
主流派は「ランク」を持っている人物を意味し、ここでいう「ランク」とは人事権、年長者、経験年数の多さなど、その場で何らかの権威、権力として機能する力を指す。現状の社会においては女性と比べて男性の方がランクを持っているということになるだろう。職場で言えば、例えば課長や部長など、役職に付き、仕事上の権限を持っている人物は主流派となる。
 
非主流派は、反対にランクを持っていない人物を指す。若手メンバー、転職者、女性などが今日一般的な非主流派である。 この主流派と非主流派というロールであるが、相互のロールでちゃんと意見交換、情報交換がなされていれば問題はない。しかし、主流派は概して非主流派に意見を押し付ける傾向があり、意見を受け入れられなかった非主流派はゴーストロールに転じやすい。ゴーストロールの例は自分の意見を取り入れない職場に怒りや恨みの気持ちを持ったり、意見することに引っ込み思案になったり、インターネットサイトに職場の悪口を書き込んだり、飲み会で悪口を言ったりなどなど。場合によってはストレスをため込んでうつ病になったりすることもある。
 
注意していただきたいのが、主流派、非主流派というロールが存在すること自体が悪いことではない、ということである。例に旧ソ連の崩壊前後の状況を挙げる。旧ソ連の崩壊以前、ゴルバチョフは国民と政府との関係性を変えようと試み、ペレストロイカやグラスノスチなど、国民の裁量や権限を強める政策を推し進めようとした。言わば主流派からランクを委譲し非主流派との格差を減らす試みである。このゴルバチョフの考えは国民の賛同を集めて国家改革が進むかと思いきや、そうは行かなかった。当時のソ連国民にとって、ゴルバチョフの考える国民の自由度が高い社会より、自分でいちいち考える必要のない、強いリーダーについていればいい状態の方が好ましかったのである。結果国民の突き上げをくらい、混乱の深まる中リーダーは強硬派のエリツィンに代わった。その後強い指導者像はプーチンに引き継がれ、ゴルバチョフが目指した主流派と非主流派の関係そのものの変容は達成されていない。 つまり主流派、非主流派の垣根をなくし立場をフラットにしていくのではなく、主流派がどう有益にランクを使うか、非主流派を尊重し協働していくかが重要となる。非主流派も働きかけ続けることが求められるが、そのためには働きかける気持ちが持続するようなロールのバランスが重要となるだろう。 一般的に発生しやすいロールの構造を見てみよう。
 
 
図の上段は現実的な役割や機能(CR、社会的立場)を表し、下段は感情、情念レベルの機能(ドリームランド)を表す。 上段の構造での左にいるリーダーは課長などの役職者、リーダーの意見に(本音はどうかわからないが表向きには)賛同している人間はフォロワー、部長などリーダーを見守る立場は守護者と位置づけられる。右の犠牲者は、左に位置する人間たちに抑圧や虐待を受ける人間である。犠牲者になりやすいのは活きのいい人材、新しい知恵を持った人材などの組織の中で異分子となる人間で、若い人、女性、外国人、転職者などが考えられる。 この2者が感情、情念レベル場の中でどんな機能を果たすかというのが下段で示されており、主流派=抑圧者、非主流派=自由の戦士と定義できる。自由の戦士の意見を取り入れていった方が組織の成長には望ましいが、現状維持のために主流派が抑圧者としてふるまってしまうというケースは往々にしてあるだろう。しかし組織の中で抑圧/犠牲の構図が発生していないかどうか把握することは重要である。

<役割の「ロール」> 続いて、2つ目の役割としてのロールについて紹介する。 関係性における役割には外的役割と内的役割の2種類がある。外的役割は一見してわかる役割のことで、職務記述書に示される職務分担や組織図に示される役職や担当などを指す。内的役割は、どこかに明記されているものではない。組織の中で関係的に、感情的にどのような役割を果たしているかを表し、例えば「発起人」「嫌われ者」「邪魔する者」「仲裁者」など。 これら2つの役割がうまく行っていないときには、役割を変える必要性が出てくる。基本的に、役割と人物が同一化されたときに問題が生じるとされるが、下記の4つも役割を変える必要性のあるケースである。

1.役割への嫌悪感  1人が長期間にわたって同じ役割を果し続けたために、心底その役割が嫌になった状態。  例1:子どものいる女性の会社員が、援助者がいない中で課長と育児機能を同時に果たさねばならず、ストレスがたまってノイローゼになる  例2:組織のために社員にあえて厳しい態度を取り続けている課長が、理解者がおらずだんだん疲れてくる

2.役割の混乱  果たすべき役割が不明確になった時に起こる。役割は会社のステージによっても変わっていく。  例:ベンチャー企業がだんだんと大きな組織へ成長→いったん完成→新たな成長へ、と企業のステージが切り替わるたびに役割の混乱が起こる

3.新しい役割の必要性  家族や組織が変化、発達していく中で、今まで存在しなかった新しい役割が必要になる状態  例:ベンチャー企業で「ツーカー」の雰囲気で仕事が回っていたが、だんだん組織が大きくなり官僚的なシステムを追加しなければいけなくなった

4.満足には果たされていない役割  本来役割を果たすべき人がその仕事を十分に行っていないときに起こる  例:課長がビジョン、手順を満足に考えられない

このほかに、役割の喪失による役割を変える必要性も考えられる。例えば職場の潤滑油的存在が定年退職でいなくなりチームが一気にギスギスし始めた、今後どのように円滑に仕事を行っていくのがよいか考える必要が出てきた、など。 組織の外部、内部の状況の変化に応じてたびたび混乱し、ストレスがかかることがあるので、役割を変える必要性があるかどうかは折に触れ見直す必要がある。 外的役割については、人事部作成のコンピタンシーリストがあったとしても、たいていリスト通り満足に果たせる人はほとんどいないぐらい立派なものである。チームとして必要な機能をどう分担していくか話し合い、役割をチームとして果たすことができればベストである。何が足りていて足りていないのか、足りていない部分はメンバーの力を借りてどう分担すればいいのか、足りていても不満はないかを把握し、必要なうち手を考える診断をすると良い。

また、内的役割に関してはいろいろな分析の仕方があるので、下記にいくつか紹介する。 <チームパフォーマンスの輪> マージェリソンとマッキャンの理論で、「パフォーマンスを発揮しているチームは8つの輪(役割)から成り立つ」という考え方である。

(1)リポーター(報告者)、アドバイザー(助言者)  情報の取捨選択が正確、世話好き、チームに情報のフィードバックを行う

(2)クリエーター(創造者)、イノベーター(革新者)  ルールに囚われないアイデアマン、新しいもの好き、何かを創造する役割
(3)エクスプローラー(探究者)、プロモーター(促進者)  チーム内外の関係作りが得意、チームの士気を上げるのがうまい、状況を前に進めるプロデューサーに近い役割
(4)アセッサー(査定者)、ディベロッパー(開発者)  新しいアイデアを試して、評価するのが得意、実験が好き
(5)スラスター(推進者)、オーガナイザー(組織者)  チームに活気を与えてアイデアを実現するのが得意、組織化が上手、手順、役割分担を考えて進める人
(6)コンクルーダー(実行者)、プロデューサー(生産者)  スキルを駆使しオーダー通りに仕事をこなすのが得意、実際に実行にうつしていく、決まったタスクフォースをしっかり進める人
(7)コントローラー(統制者)、インスペクター(監査人)  データ分析が得意、しっかり進捗管理しながら状況をモニタリングしフィードバックする
(8)アップホルダー(支持者)、メンテナー(維持者)  チーム内の人間関係をケアするのが得意、メンター、みんなを見守って応援していく
 
以上8つの役割が現在の組織にバランスよく存在しているか、足りていないのはどこか、など分析して組織のロールの状況を捉えるのはわかりやすい。 また、神道の考え方も組織のロールを捉えるのに参考になる。 <四魂(古神道)> 人の心には4つの魂が宿っているという考え方である。 ・荒御霊(あらみたま:勇気を持って前に進む力) ・和御霊(にぎみたま:親しみ交わる力、社交) ・幸御霊(さちみたま:人を愛し育てる力、自愛、育み) ・奇御霊(くしみたま:観察、分析、理解などから構成される知性、知恵) このような分類も、組織のロールのバランスがどのようになっているか考えるのに参考になるだろう。 また、企業によっては、組織文化という観点で見てみるのも面白い発見があるかもしれない。

<4つの組織文化タイプ組織(キャメロンとクインの理論)>

 
組織文化を4タイプで分類 ・家族文化 人々が多くのものを共有する非常にフレンドリーな職場 ・イノベーション文化 ダイナミックであり、起業家精神にあふれクリエイティブな職場 ・官僚文化 非常に形式的で構造化された職場 ・マーケット文化 過程ではなく、結果を重視する組織 企業には多かれ少なかれすべての文化が存在するが、ベンチャー企業から組織としてのステージを1つ上がるとき、また安定した大きな企業になるときではそれぞれの文化の比重が異なるだろう。 他にも、エゴグラムやエニアグラムでの分類法で考えることもできる。皆で話し合って、オリジナルのロールを考えるのも良いだろう。

※バックナンバー「組織開発の基本」

・組織開発の基本 第01回:第1節:組織開発とは何か

https://balancedgrowth.co.jp/column/odorganization_development.php

・組織開発の基本 第02回:第2節:組織開発で使う道具を俯瞰する(前半)

https://balancedgrowth.co.jp/column/od2.php

・組織開発の基本 第03回:第2節:組織開発で使う道具を俯瞰する(後半)

https://balancedgrowth.co.jp/column/od3.php

・組織開発の基本 第04回:第3節:企業事例 (1)

https://balancedgrowth.co.jp/column/od4.php

・組織開発の基本 第05回:第3節:企業事例(2

https://balancedgrowth.co.jp/column/od5.php

・組織開発の基本 第06回:第3節:企業事例(3)、第4節:組織開発コンサルタントになるための勉強方法

https://balancedgrowth.co.jp/column/od_6.php

・組織開発の基本 第07回 第2章プロセスワーク理論 第1

https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter21.php

・組織開発の基本 第08回 第2章プロセスワーク理論 第2

https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter22.php

・組織開発の基本 第09回 第3章プロセスワーク理論 第3

https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter23.php

 

※ 関連する動画を、バランストグロースのYoutube チャンネルでご覧いただけます。

 

組織開発(OD)とは何か

https://www.youtube.com/watch?v=Qf2hg3ALv84&t=1082s

組織開発で使う道具を俯瞰する

https://www.youtube.com/watch?v=1mjg468lra8&t=5s

組織開発の企業事例

https://www.youtube.com/watch?v=QxIfmQfi7dc

組織開発の企業事例 パート2

https://www.youtube.com/watch?v=clKg7oo7c5I&t=17s

3匹のヤギ

https://www.youtube.com/watch?v=WFFogwE10mQ&t=43s

プロセスワークの5ステップ

https://www.youtube.com/watch?v=nlrXdQnjVH4&t=54s

DVFR変革モデル

https://www.youtube.com/watch?v=m46Pp-zM8yQ