カウンセリングの巨人カール・ロジャーズの「自己一致」×プロセスワーク

カウンセリングの巨人カール・ロジャーズの「自己一致」×プロセスワーク

“「現れ出ようとするもの」への個と集団へのコーチング” 第6回

● カール・ロジャーズの「自己一致」とは?

皆さんは、カウンセリングの巨人カール・ロジャーズの「来談者中心療法」に触れたことがあるでしょうか。「YES」と答えた方は、「これって、我々が学び、実践しているコーチングと、ほぼ同じではないか!?」と感じられたと思います。心の病気を持たれている方へのアプローチがカウンセリングであり、健常者へのアプローチがコーチングであり、双方はよく似ている。そのような意見も納得感があります。であれば、ロジャーズのカウンセリングから我々が学べることは沢山あるはずです。

ロジャーズが定義するカウンセラーに必要な基本姿勢には、受容・共感・自己一致の3つがありますが、今回は自己一致を取り上げましょう。

自己一致の元の英語表記は「Congruence」であり、複数のものが一致したり、足並みがそろっていることを意味します。ではカウンセリングでは「何と何の一致」を指すのでしょうか。心理学では、「実感と認識の一致」といった専門用語が使われており、抽象的で理解しにくい面もあります。よってここで源流に立ち戻り、ロジャーズ自身のコメントをご紹介しましょう。

In my relationships with persons I have found that it does not help, in the long run, to act as though I were something that I am not.

「他者との関係において、本当の私でない私のように振る舞うことは、長い目でみてよくないことだと気づいた」

つまり多少乱暴にいうと、ロジャーズの「Congruence」とは、「本当の自分」と「自分の振る舞い」の一致であり、よって自己一致と訳されていると言えます。そう考えると「Congruence」は、「Genuineness」(純粋性)、「Authenticity」(本物であること)、「Realness」(本当であること)とも言い換えられる、ということの意味が納得できそうです(図1)。

● 著者がコーチングで経験した「不一致」

自己一致(Congruence)の反対は不一致(Incongruence)です。「本当の自分」と「自分の振る舞い」が一致していない状況を表します。

著者(西田)のコーチ初心者のころの体験をお伝えしましょう。ある企業の営業担当者約8名に個別にコーチングをしていたのですが、Aさんとのコーチングがどうもうまく行きません。私としては彼の視点を広げてあげたい善意で、「X領域への作戦は素晴らしいですね。ところで、Z領域はどうしますか?」といった質問をすると、即座に「もちろんZ領域もぬかりはありません!(以下続く)」といった回答が返ってきます。コーチングがうまく進んでいるときに起きる、クライアントが「うーん。。。」と自分の心の中をサーチしている瞬間が皆無なのです。どんな質問にも即座に返答が返ってきます。これはコーチングになっていないなと焦りはじめます。そしてAさんには言わなかったのですが、彼に対してこんな気持ちになりました。

「Aさん。私はあなたを尋問しに来ているのではないのです。あなたがこの場で深く考えるきっかけをご提供したくて質問しているのです。あなたがとっくに考え済のことは、教えて頂かなくて大丈夫です。」

今思うと、コーチとしての自分は、まさに不一致の状態でした。上述した気持ちが「本当の自分」です。なのに、「自分の振る舞い」としては、その気持ちを伝えることなく、偽りの傾聴、共感、質問を繰り返していたわけです。Aさんとのコーチングセッションが有意義なものにならなかったのは言うまでもありません。

そうではなく、「Aさん。ちょっとお話をさえぎってしまって申し訳ありません。ここ数回のコーチングで私が感じ続けていた気持ちをお伝えしても良いでしょうか?」といった具合に「本当の自分」と「自分の振る舞い」を一致させることが出来たら状況は変わっていたはずです。

例えばこんな答えが返ってきたかもしれません。「正直言うと、西田さんって、ちょっと怖いなと感じていました。なので、コーチングの前日に、何を聞かれそうかを箇条書きで洗い出して、それぞれどんな返事をしようかと3時間ぐらいかけて考えていたのですよ。」

このような本音でのやりとりが行われれば、コーチとクライアントの関係は劇的に改善していったはずです。カウンセリングの理論でも、カウンセラーが自己一致することで、クライアントはカウンセラーを信頼するようになり、また自己一致のモデルをカウンセラーから学べるといわれています。

● 一致・不一致を同時多次元的にとらえるプロセスワーク

プロセスワークにも一致・不一致の考え方がありますが、少し異なる点もあります。プロセスワークでは一致・不一致を同時・多次元的にとらえ、「場(フィールド)」の変化に着目します。一致・不一致はコーチだけのことではなく、クライアントにも起きていて、それらは互いに関係し合っていると考えます。

上記の例で引き続き説明します。Aさんの「本当の自分」は、「コーチングの場は怖いので行きたくない」です。でも「自分の振る舞い」は「コーチの質問にハキハキと答える」になってしまっており、不一致が生じています。コーチの不一致とクライアントの不一致が同時に生じているわけです(図2)。

 

上述したロジャーズのカウンセリングでは、カウンセラー(コーチ)が自己一致を取り戻すことの重要性が語られていました。プロセスワークでは、それに加えて、クライアントが自己一致を取り戻す働きかけも有効と考えます。例えば、「もしかしてAさんにとって、コーチングは心地よいものではなかったりしますか?」といった問いを投げかけると、本音の開示がクライアントに起き、それがコーチの本音開示に波及するかもしれません。

● 不一致は必ずダブルシグナルとして表出する

プロセスワークの不一致に関する理論がもう一つあります。それは「不一致は必ずダブルシグナルとして表出する」です。

ダブルシグナルとは、言葉での表現と体での態度が矛盾している状態を指します。例えば誰かの話を聞きながら「それは面白いですね!」と言葉で反応しつつ、足で貧乏ゆすりをしてイライラ感を隠せないといった状態です。

冒頭のAさんへのコーチングの例に戻ります。

コーチ:「X領域への作戦は素晴らしいですね。ところで、Z領域はどうしますか?」
Aさん:即座に、「もちろんZ領域もぬかりはありません!」

Aさんが「ぬかりはありません」の瞬間に両手をコーチに対して押し出しました。「ぬかりはありません」というポジティブな言葉と、相手を押し出して拒絶するような動作が同時に起きた。まさにダブルシグナルです。コーチはここに注目します。

「今、少し変わった動作をされましたね。この押し出す動作を何度か繰り返していただけますか? どんな感じがしますか? その押し出している手は何と言っているのでしょうか?」

あるいは直接聞いてみるのも良いかもしれません。

「『ぬかりはありません』のところで、手を押し出す動作をされましたけれど、どうしてそうされたのですか?」
(これをあえて聞きに行く行為も、セラピストがそのシグナルを逃すのではなく、より自己一致して「尋ねる」ことも意味すると思います。)
このようにコーチングセッション中でのクライアントのダブルシグナルに気づいて、それを増幅してみたり、その理由を問いかけたりすることが不一致を一致へと変化させ、それに伴ってコーチングという場(フィールド)も変化させることが可能なのです。

● 不一致の増幅

最後に、狭義の一致・不一致(本当の自分・自分の振る舞い)から少しそれてしまいますが、一般論として、何か2つのものが不一致の場合の1つのコーチング・テクニックについて触れましょう。それは不一致の増幅です(図3)。

Bさんが2つのものの不一致で悩んでいます。会社を辞めて他者に貢献できるような活動を新たに始めたいのですが、50歳も近くなった今、そんな冒険は無理と思っています。一方で、今の会社は安定していて収入面では良いのですが、仕事内容はつまらなく興味を持てませんj。

2つの間で行ったり来たりするのはクライアントの日常ですから、コーチは違う手段をとります。片方を疑似的に消し去り、残ったもう片方を増幅します。

「今の会社はもう無いと思ってください。Bさんには他者貢献をする新しい道しかありません。」そして、周囲にいる人や、見えるもの、体感などについて質問し、その状況を味わってもらいます。すると多くの場合、「あれ、思ってみたほど怖くない。以外と本当にやれそうな気がしてきました。」といった答えが返ってきます。

今度は逆を増幅します。「会社を辞めて他者貢献する道は閉ざされたと思ってください。Bさんには今の会社で働くしか道はありません。(会社を辞めない選択肢にも意味があると思います。Bさんが今の会社で働く良さに100パーセント一致してみるとどうですか?)」そして同様に、周囲にいる人や、見えるもの、体感などについて質問し、その状況を味わってもらいます。すると多くの場合、「あれ。今の会社にいながらでも、他の人に貢献するような活動ってできる気がしてきました。」といった答えが返ってきます。

不一致を増幅することが、逆に一致をもたらしたわけです。今まではどちらを選んでも困ったことが起きると考えていたBさんですが、今はどちらも素晴らしい選択肢だと思えるようになっています。

●まとめ

ロジャーズは自己一致の重要性を説くと共に、簡単なことではないとも認めています。それが、「カウンセラー(コーチ)として振る舞っている間だけは必ず自己一致せよ」というアドバイスにつながっています。

これを拡大解釈すると「上司として振る舞っている間だけは必ず自己一致せよ」という教訓に言い換えられるかもしれません。部下のC君が出来の悪いレポートを持ってきた時に、叱るのでもなく、偽りの「おお。ご苦労さん」を言うのでもなく、「私がこのレポートを受け取って、どう感じたのかを伝えても良いかな・・・?」で初めてみると、きっと何かが変わり始めるはずです。
(カウンセラーをしている時だけは自己一致せよ!というのはロジャースが直接言っていたのでしょうか?であるならばOKなのと、いずれにしろ自己一致はあらゆる場面でできるようになるほどに良いコーチにもなれるし、人生も自己一致してより意味深く豊かなものになると思います。)

認定プロセスワーカー 松村憲
組織開発コンサルタント 西田徹

==================================

●「現れ出ようとするもの」への個と集団へのコーチング バックナンバー

第1回 「変わる痛み」と「変わらない喜び」が変革の邪魔をする ~ペイン・プレジャー・マトリクス×プロセスワーク~

第2回 10個の超シンプルな質問が深い自己探求への入り口になる ~クリーンランゲージ×プロセスワーク~

第3回 迫害者・犠牲者・救済者のロールから脱出する ~ドラマトライアングル×プロセスワーク~

第4回 禅の悟りプロセス「十牛図」とコーチング ~十牛図×プロセスワーク~

第5回 燃え盛る炎のエネルギーを変革に活用する ~バーニングプラットフォーム×プロセスワーク~

第6回 カウンセリングの巨人カール・ロジャーズの「自己一致」×プロセスワーク

第7回 変革期の組織学習:ダブルループ学習

第8回 名著「失敗の本質」に見る部分最適化した組織同士のコンフリクト ~「失敗の本質」×プロセスワーク~